sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

生き物の皮を革にする仕事①

タンナーの見学に行ってきました。タンナーというのは、動物の「皮」を鞣(なめ)して、腐らない「革」にする工場のことです。
大阪は大国町にあるレザークラフトのお店「フェニックス」の村木さんのはからいでの見学でしたが、彼は私(スナワチ代表の前田)が知らなかったことを教えてくれて、いつもお世話になっている「レザー博士」のような人物です。
道中に村木さんから聞いた話や、私がタンナーで見聞きしたことを今回ご紹介します。

向かった先は兵庫県姫路市です。

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ここは、150前後のタンナーが集まった、日本一の革の産地です。イタリアのトスカーナ地方のように、国内ですらそれで有名でないのが残念なことです。

まず伺ったのは主に「ベンズ」を手がける昭南皮革。ベンズというのは、レザーのショルダーとベリー(お腹)を除いたお尻一帯の部分で、滑らかで厚みがあり、線維密度がギュッとつまっているレザーのことを指します。

カービング(模様を彫ること)や、靴底などに使われる丈夫なレザーです。

米国の取引先から仕入れた原皮の倉庫から見せていただきました。
原皮は、牛が牛肉にされたあとに残った皮を防腐のため塩漬けして運ばれます。実は私は、これをカナダの牧場でカウボーイとして働いた時に見た経験があります。
牧場では自分の家族が食べる分の牛は自分たちの手で潰すため、ライフルで撃って皮を剥いで、肉にします。この時、手際よく牛を解体したあとに、足元にはベロリと毛皮が残りました。この肉面に塩をまぶして倉庫に保管しました(写真を載せようと思いましたが、ちょっとグロかったので自粛)。
拙著『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』(旅と思索社)ご参照。

この時点ではまだ「獣」くさいにおいがあり、製品になってしまったあとでは感じにくい、「レザーは元々生き物だった」という事実を否がおうにも思い出させられます。

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いわゆる革のにおいというのはいいにおいですが、あれはほとんど鞣しの際に使われる薬剤のにおいです。レザーに獣くささが残っているような革は、あまり鞣しの質がよくないのではないでしょうか。

原皮はこのような巨大な洗濯ドラムのような装置に入れられて、塩や汚れを落とします。

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次に、石灰水と一緒に回されます。それにより線維が柔らかくなり膨張します。そうやってできた線維の間に、鞣しの成分を浸み込ませるイメージです。
このように、革づくりには大量の水が使われます。村木さんのお話では「革一枚をつくるのに、水1トンがいる」とのことです。そのため、タンナーはたいてい良質の水が得られる川の近くに建てられます。
姫路市では革業界を保護する意味もあり、鞣しで出る排水処理には支援が行われているそうです。「革の町」ならではの取り組みです。

昭南皮革では、タンニン鞣しを行なうので、このようなピット(槽)に長時間漬け込まれます。タンニンというのは、ミモザに代表される植物から抽出される「渋」と思ってください。

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様々に配合されたタンニンに漬けられ、薬剤が均一に浸透するよう、吊った皮は動かされるようになっています。工場の電気を止めてしまうお正月にも、交代で職員がやってきて、棒で押して動かすそうです。

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何ヶ月もかけてじっくりと漬けられるのが、タンニン鞣しのレザーがクロム鞣しに比べて高価な理由です。
*レザーのクロム鞣しとタンニン鞣しに関しては過去のコラムをどうぞ。
ここからさらに、再鞣しや乾燥、仕上げといった、それぞれに気を使う工程がまだまだ続いて、やっと皮が革になります。

このタンニン剤の混ぜ具合、漬け込む順番や期間などが、それぞれのタンナーの秘伝の技法といいますか、企業秘密になっていて、各社の特色を生んでいます。

つまり、ひとつのタンナーがあらゆるレザーを鞣すことができるわけではなく、タンナーごとに得意分野・専門的なノウハウがあって、「うちはこれだ!」という自慢のレザーを鞣しているわけです。

そして、重要なことは、自慢のレザーであっても、扱う相手は前述のように「元々は生き物」ですから、個性もあれば差異もあります。そのため、いつも同じように一定・均一の製品をつくることは難しく、同じように作業を進めても毎回ちがいが生まれてしまいます。その差を極力小さくするのが、タンナーの腕の見せどころでもありますが、限界があります。

しかしながら、レザーは自然素材であるからこそ、レザー製品には文明社会に手懐けきれない神秘性があると私は考えていて、そこがたのしみです。カバンに元からあるキズ、財布にあるシワなどなど。その個性との一期一会を大切にしたいとスナワチは考えています。

いわゆるマーケティングにより「高級」とされた製品たち(と私はあえて書きますが)の多くが何をしているかというと、レザーの表面に顔料塗装をほどこして文字通り「糊塗」したり、型押しによって表情を消しています。そうなると、ほぼ無機質な感触の、ほとんどプラスティックのような“レザー”です。
そうやって、レザーに関して無知でもおカネだけは持った顧客からのクレームを排除しようとしているわけです。

 

昭南皮革の三代目になるという社長は、「うちはこれしかでけへんけど、こういう手間をかけて、この値段で、それでもよければ…、というスタンスでやってきていますねん。むしろ、それがよかったのかも」と、自信をにじませた笑顔を見せました。

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姫路にはもう稼動していないタンナーもそこここにあり、個性と価格のバランスを維持できなかったところは続けられなくなってしまったのです。

生き物だったものが、あなたの持ち物になるという不思議と崇高を、レザー製品を使う度に感じてほしいと、スナワチは願います。

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テスト・ライド

日本には「ジーンズの町(岡山県の児島)」もあれば、「靴下の町(奈良県広陵町)」もあれば、「カバンの町(兵庫県の豊岡)」もあることをご存知でしょうか。

そして、「手袋の町」もあります。香川県東かがわ市です。
国産の手袋のおよそ9割を製造するにもかかわらず、訪れてみると小さな町です。
昨今は廉価な外国製に押されていると云いますが、中にはちゃんと独自の技術なり哲学を持って、日本製らしい優れた手袋をつくり続けている会社があります。

スナワチがコラボ先として組んだのが「香三堂」です。
通常ではありえない、50サイズ以上の型を持って、フィットのいい手袋をつくっています。なぜそんなにたくさんのサイズを持たなくてはいけなかったかというと、香三堂の創業者はモーターサイクル用の手袋を製造してきた経験から、安全性を確保するしっかりしたレザーを使いながらも、フィットがよくて操作性を損なわないという、相反する手袋を手がけてきたからなのです。
そのために多様な手のかたち・サイズに応えようとしているわけです。

2017‐18の香三堂×スナワチのコラボ・レザーグローブが発売になっております。
今回、レザーも裏地も新調したため、私、スナワチ代表の前田が「テスト・ライド」に出かけてみました。

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※はじめにお断りしておきますが、香三堂×スナワチのコラボ手袋は、自転車やバイクの運転用ではありません。あくまでもタウン用モデルなのですが、本格的な冬の到来の前に指先が冷たくなる環境を得るために自転車に乗りました。
運転の際にかかる体重による負荷や、汗の塩分、レバーを繰り返し握る操作は手袋に負担をかけますので、専用の手袋をお使いください。ただ、通勤や通学の時に自転車で近距離を行く程度なら問題はないでしょう。

だいたい片道10km程度の軽いサイクリングでした。
陽が暮れる頃を見はからって出ましたが、ほとんど手の冷たさは感じません。

裏地の吸湿保温素材「ソリスト®サーモ」、なかなかよいです。

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私は自転車初心者なのでスピードは出しません。NHK『こころ旅』の火野正平さんに毛が生えた程度です(文字通りの意味ではありません)。

愛車はアラヤのMuddy Fox CX Gravel
若いおにいさんがやっている近所の自転車屋さんに「スピードはいらないので、タフな道も行けるやつ」と希望を伝えて選んでもらったものです。

テスト・ライドの目的地はこれです。

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帰路には夜になり気温は一桁に下がりましたが、自転車を漕いでいたため暑くなってきました。

そして、新品だった手袋は、より馴染んだ感じになりました。まぁ、早い話がハンバーガー食べに行っただけなのですが、この程度のサイクリング、寒さなら、手袋に全然影響なし。

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オーダー製作になりますので、ご注文からお届けまで2週間前後いただきます。
「手長(中指から手首のシワまで)/手囲い(自然に開いた手のひらの一周)/中指」
をメジャーで計測してご注文ください。
どなたかに測ってもらうとより正確にできると思います。
ご不明な点は遠慮なく
✉info@sunawachi.com
までお尋ねください。

通常のSMLのサイズで合う手袋が見つからない方、
自分にぴったりの手袋をしたい方、
気持ちよくて暖かい手袋を探している方、
男女を問わずご注文をお待ちしています。

http://sunawachi.com/products/detail.php?product_id=25

 



「軸足はちょいダサ」  

スナワチを発足させてもうすぐ2年になります。

経営方針を文章にしているわけではありませんが、言うなれば、反急成長、反流行です。その時々に流行っているものを追って、他社のヒット商品をパクッたり、ウワベだけの日本製とか本物のような惹句を並べてみるような恥知らずはやめておきたいと思っております。

その場しのぎのウソは大手のサラリーマンに任せておけばいいくらいに思って、どうせ小さな会社で、なんとか小さなままでいられないだろうかと虫のいいことを考えている弊社は、せめて世間にウソだけはつきたくないと日々思います。なんせ、ウソばかりの世の中ですから。

バカにしているのではありません。私自身も大手のサラリーマンであった経験を踏まえて、大量生産品を大衆に売らなくてはいけない図体のデカい組織は、その時一番売れるモノに飛び付いていく瞬発力で勝負するしかない哀しい事実を知っているだけです。鼻息の荒い経営者は別として、そこで働く労働者で、それに哀しさを覚えない人がいたら手を挙げてほしいです。

 

スナワチでは、取り扱う製品を決める際の選定基準だけは、言語化していまして、これは何度でもここに書きます。
道具として無駄がない革製品
革製品はあくまでも使われてこそ良さを発揮します。飾って眺めるものではないのです。

一貫した哲学に基づくデザイン
デザインの細部一つひとつに意味があって、理由がある。意味のない装飾は不要です。
革本来の手触り、風合い
レザーは元々獣ですから、それらしい表情と質感があって当然です。プラスティックや化学繊維のような均一性は一旦脇に措きます。
野性と知性を醸す凛々しさ
その獣の皮だったものを道具として持つ人には、知性が漂うべきです。矛盾するようですが、歴史的にも、そこが革の神秘的なところです。
持つ人に満足を与えられる存在感
革をふんだんに使った製品にはそれなりの重量ないし迫力が出るものです。

 

さて、カバンと財布のみでスタートしたsunawachi.comは、小物類も増やして、少しずつ充実してきました。製品ラインナップを眺めて、我ながら思うことは、
「うーん、ちょいダサだな……」
ということです。これは狙い通りというか、そうなるべくしてなったのです。
流行というものは、製品が持つ時間軸と、使い手の時間軸(ライフステージ)で見る必要があります。
まずはその製品やブランド名が、「今」にマッチしているのか、どうなのか。デザインや用途が現代、というかもっと言えば、この瞬間的な今に合致するものなのか。
そして、それを使うあなたの年齢や置かれた立場に適合したものなのか。


たとえば、「今20代である男性/女性のためにつくられた製品を使うあなたは、今20代の男性または女性なのか」という、製品の時間軸と使い手の時間軸が交差したポイントでもっとも「いいね!」となるわけです。
わかりやすく言えば、若者のためにつくられたモノを、私(スナワチ代表の前田将多)のような40代のおっさんが使っても、大抵の場合は「よくないね!」なのです。

ところが、レザー製品、特にスナワチが扱うような十数年もしくはそれ以上に渡る使用を前提にしたモノは、点ではなく、線で使う人に寄り添うべきものです。
あなたが40代になっても、50代になっても持つに足り、もしかしたら、次の世代まで受け継げる可能性まで秘めたものとしてのレザー製品です。
だから、ちょいダサなのであり、それこそがカッコいいと、我々は信じているのです。

実際、私の持ち物は、20年以上履いているブーツ、十数年着ている革ジャン、何年も使い込んだカバン、この先も何年にも渡って持ちたいハットや財布などなどで、どれも今風でなかろうが、多少ボロかろうが、愛してやみません。それらを手に取る時、ちょいダサい人間としての私は、深い満足を覚えます。

それは、買った日とはまた異なる種類の、静かな通奏低音のような喜びです。

 スナワチは、これを提供したいと思っています。今ではなく、何年もあとになってです。
最も手っ取り早いオシャレが流行を追うことです。これは言うなれば簡単なことです。ずっとカッコよくあることは難しいことです。なぜなら、今は見えない何かを見据えなくてはいけないからです。

追うべきは、流行ではなく、永遠なのです。

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「スナワチ」という変な社名の意味

フェイスブックの「スナワチ」ページをフォローしてくださっている方が、なぜか3000人を超えまして、そのわりに売上に直結してないのはなんでなんだろうと思いつつ、……そこは夏のせいにしております。

今は広告も出していないのに、毎日のように「いいね!」をくださる方が増えているので、はじめてスナワチを知ってくださった方に向けて、ご挨拶がてら弊社の社名の意味を書いておこうと思います。

スナワチというのは、いわずもがなの日本語の「すなわち」ですが、意味は「いわば」「つまり」、英語にすると”in other words”ということになります。

AすなわちB、A→Bと変換させる言葉です。主に、変換させてわかりやすくするとか、伝えやすくする場合に使われます。

日本語なのに、領収書をもらう際には必ず「え?」と訊き返されます(苦笑)。

スナワチは、小さなレザーブランドを厳選して取り扱うオンラインストアです。お一人でやっているとか、ご夫婦とか、少人数の工房で革製品を一つひとつつくっている人たちを尊敬していまして、こういった「品質は素晴らしいが、説明したり伝達したりするのは得意でないし、それに割く時間も人手も足りない」というブランドを、スナワチがレザーファンの方々にお届けしたいという想いでやっています。

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日本人は、アメリカ人みたいに自分の製品を自信満々で宣伝するのが苦手なのです。かくいう私(代表の前田)でさえ、スナワチのことを自信たっぷりにお話しするのは気が引けるもので、いつも「まだまだだなぁ」「こんなふうにしなくてはいけないなぁ」と思いながらやっています。実際そうですし。
開業してもうすぐ2年になります。

だけど、他人様のことなら言える。自分が惚れ込んだブランドや製品なら、自信を持ってオススメできますし、弱点やある種の難点も正直にお伝えするのが、レザーという天然素材を扱う上で不可欠だと考えています。

レザーブランドとお客さんの間にスナワチがあって、つまり、
製品→スナワチ→お客さん
と、まさに「すなわち」という言葉のように、お伝えして、お届けするのが我々である、という意味が社名に込められています。

「すなわち」というのは日常生活ではほとんど耳にすることがない言葉なのですが、たまに本とか講義とかメディア上で出合うことがあります。

レザー製品は平気で十年は使えて、下手すりゃ(いや、うまく手入れすれば…)一生使えてしまいます。ですので、毎週、毎月買うような類のモノではありません。
それでも、たまーに、「すなわち」という単語に触れた際に、「スナワチ」を思い出してもらえるようにと、こんな願いも込めています…….。

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父の革ベルト

私は父親を約十年前に亡くしています。ガンが見つかってから一ヶ月半であっという間にこの世を去ってしまいました。
父親は本とCD以外はほとんど収集する習慣はなくて、時計も靴も安物ばかりを使う人でした。
「そんなものはな、持つ人が持てば高そうに見えるし、高級品を着てたってみすぼらしい人はいる」
と口癖のように言っていました。

あ、親父の名誉のために付け加えますと、スーツだけは仕立て屋さんを家に呼んで、何十万円もするものを着ていました。まだ手頃なイージーオーダーが普及する以前の時代の話です。
その他、アメリカから通販で、カウボーイの着る服や使う物なんかはたまに買っていました。シャツとか、ブーツとか、そんなモノです。決してカッコの良いものではないのですが、人間、好きなモノを堂々と使っていればそれなりに様になるものです。

父親が死んで、母親がその持ち物を整理してしまう前に形見をもっともらっておけばよかったと、今更ながら思うのですが、私がもらったものは二点だけです。

親父が仕立て屋さんに多少の無理を言って作ってもらったウェスタンジャケット。これは、肩と背中にヨーク(布の切り替えし)が付いた上着です。あえて同じ布のまま切り替えしだけを加えたものなので一見普通のジャケット。そういうのが本国アメリカにはあまりなくて、彼はわざわざ仕立てたようです。私はこれを貰って、サイズを自分用に直してもらって、着ています。

もう一つは、革のベルト。ウェスタンらしい刺繍が入っているけど、控えめで普段にも使いやすいものです。

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父親が使った年数プラス十余年使っていることになりますが、おそらくこれからもまだまだ使えます。

私は二年前のひと夏、カナダでカウボーイをして働いていました。カウボーイに興味を持つ人というのは様々な入口から、入ってきます。乗馬から、西部劇の映画から、ブーツやシャツなどファッションから。私は父親の影響でカントリーミュージックからでした。
もう四半世紀も聴き続けてきたけど、カウボーイの実態というのがわからず、思い切って自分でやってみて「カウボーイとは何者なのか」を解き明かそうとしたのです。
それがやっと本になりました。
『カウボーイ・サマー 八〇〇〇エイカーの仕事場で』(旅と思索社より5月下旬発売)
https://www.amazon.co.jp/dp/4908309051

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本にはあえて書いていませんが、私は牧場には父親の革ベルトをして行きました。
父親はなかなか頭の良い人で、いい大学を出て、定年まで会社を勤め上げ、三人の息子を立派に、かどうか知りませんがちゃんと育てました。私には父親を越えられることなど「バカであること」くらいしかなかったんですね。バカな男が書いた、カウボーイのほぼ全て。是非、お読みいただきたいです。

レザーは、次の代に遺せるものです。この本もそうあってほしいと思って書きました。

「愛せるモノを、持たないか?」

http://sunawachi.com

【レザーコラム】「理想のお客さん」

スナワチは、小さなレザーブランドをお届けする小さな会社で、まだ歴史も浅いのですが、それでもスナワチを信頼してオンラインで買ってくださるお客さんのために、スナワチ・ブランドというものも考えていかなくてはなりません。

取扱う商品の選定基準はこうです:

・道具として無駄がない革製品
 革製品はあくまでも使われてこそ良さを発揮します。飾って眺めるものではないのです。

・一貫した哲学に基づくデザイン
 デザインの細部一つひとつに意味があって、理由がある。意味のない装飾は不必要です。

・革本来の手触り、風合い
 レザーは元は獣ですから、それらしい表情と質感があって当然です。プラスティックや化学繊維のような均一性は一旦脇に措きます。

・野性と知性を醸す凛々しさ
 その獣の皮だったものを道具として持つ人には、知性が漂うべきです。矛盾するようですが、歴史的にも、そこが革の神秘的なところです。

・持つ人に満足を与えられる存在感
 革をふんだんに使った製品にはそれなりの重量ないし迫力が出るものです。

そして、そういったレザー製品を手にしてほしい「理想の顧客像」というものを思い描きます。「こんな人が買って、永く使ってくれたらうれしいなぁ」というイメージです。
基本的にはカッコいい男たちに、カッコよく使ってほしいです。実際は、女性のお客さんも多いのですが、彼女たちはきっと男以上にカッコよく使ってくださっているはずです。
カッコいい男像はこうです。私が出会ってきた、傍目に見てきた人たちから総合します。

・仕事に誇りを持っているが、本気で遊ぶ。
・家族を大事にしているが、家族の話ばかりをしない。
・男女平等を唱えるが、男女を同じくは扱わない。
・カネがあっても贅沢しない。カネがなくても吝嗇しない。
・モノを大事にするが使いたおす。
・何事にも自分の基準を持っていて、他人や流行に惑わされない。

そんなカッコいい男、どこにもいないって? ……ですよね。
つまり、スナワチの営業妨害をするようなコラムを自ら書いてしまったでしょうか。

いいえ、そんなカッコいい男は確かに、現実にはなかなかいないものです。私だってちがいます。しかし、人それぞれが思うそういう男像を心の中に持っているかどうか、なんです。
どこかで分かれ道に差し掛かったら、その男に行き先を訊いてみる。なにかに迷ったらその男に判断させる。そうやって、自分は少しずつその男に近付いていっているのかどうか、たまに立ち止まって振り返ってみる。
そういう指標であり理想だと思ってください。

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いるでしょう? 誰の心にも、そういう男が。そして、女が。

では、sunawachi.com へのご訪問をお待ちしています。

「カウボーイに履かれたカウボーイブーツ」

このカウボーイブーツは、私スナワチ代表の前田が、18才の時にアルバイトをして買った初めての高価なモノでした。もう23年前のことになります。
世界最大のブーツブランド"JUSTIN"のスーパーローパーというタイプです。ローパーはroperで、投げ縄する人という意味ですので、乗馬用のカウボーイブーツに比べて、つま先が丸く、踵が低いです。

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当時僕は普通の高校生ですから、そのどちらもしませんでしたが、カントリーミュージックばかり聴く変なやつでした。音楽からカウボーイに興味を持って、憧れていました。今でもほぼカントリーばかりです。
僕は高校を出ると、アメリカの大学に行きました。このブーツを履いて行きました。学生寮の初日、ブーツとカウボーイハットとカバンを置いて部屋を出ていっていたら、その間にやって来たルームメイトのアメリカ人は
「ルームメイトは日本人と聞いていたけど、なんだこりゃ? 俺はカウボーイと住むのか?」
と不思議に思ったそうです。
このブーツは底がレザーソールで初めはやや滑りやすかったです。当時は知識がありませんでしたから、擦り減った時は同じようにレザーソールに張り替えてもらい履き続けました。帰国してしばらくは実家の下駄箱で眠らせている時期もあり、カビを生えさせてしまいました。その時は丸洗いしてキレイにしました。丸洗いで大丈夫でしたよ。
モーターサイクルに乗るようになって、安全のため滑りにくいビブラムソール(ゴム)に替えました。
会社員としてコピーライターの仕事をして、服装は自由だったので、やはりこのカウボーイブーツを履いていました。その頃には、何足も持っているブーツの中で、最も足に馴染んだ履きやすいブーツになっていました。
2年前に会社を辞めて、カナダでカウボーイをすることになり、僕は当然履いて行きました。
こいつは、カウボーイに履かれるために生まれたブーツなのに、なぜか日本人の高校生に東京で買われるハメになり、その小僧がカウボーイになるまで20年くらいかかったわけです。やっとカウボーイに履かれることになったのです。
カウボーイの仕事はタフで、毎日クタクタでした。
その仕事の模様は今春『カウボーイ・サマー 八〇〇〇エイカーの仕事場で』という本になって旅と思索社から刊行予定です。
ブーツも年季が入っていましたから、ものの2週間で小さな穴があき、だんだん広がっていきました。
ひと夏、精一杯働いて、僕はこのブーツは役割を終えた、カウボーイブーツカウボーイブーツとして役目を果たしたんだから、いいだろうと思いました。
早朝にそっと、牧場の片隅に穴を掘って埋めました。
 
数えたら21年間の付き合いでした。ちょっと感傷的になりました。長い間大事にしてきて、履き心地が良すぎて、「えっ、僕は今日どの靴を履いてきたんだっけ?」と足元を確認するくらい、足に違和感を与えない、僕にフィットしたモノでしたから。
しかし、レザーというのはこういう時間をかけた使い方ができるということを改めて思い知らされ、
「オレは精一杯生きてきたな。このブーツもよく付いてきてくれたな……」
と、満足感の方が大きかったように記憶しています。
愛せるモノを、持っていました。
 
「愛せるモノを、持たないか?」
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