sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

サラリーマンにはできない仕事

スナワチPop-upストア博多、無事に終了しました。足を運んでくださった方々へ御礼申し上げます。

Pop-upストアをやると、弊社で取り扱う各ブランドが一覧できて、私はもちろん、立ち寄ってくれるブランドの方にも他社が手掛けるレザー製品を見られて興味深いみたいです。

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昨年、大阪でやった時にはKIGO内山さんが見えて、Tochcaの製品に「ほえぇぇ」と感心されていましたし、今回はBig Mouse Jimmy後藤さんが大分県から、Tochca天崎さんが広島県から来てくれました。天崎さんはm.rippleの製品をシゲシゲと眺めて、「この素材で、この手間だったら、割安ですねぇ……」と。
クラフツマン同士、モノを手に取ればいろいろなことがわかるようです。

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その晩、天崎さんと飲んでお話しして気付いたことを書き止めておこうと思います。

スナワチは、ひとり、ないし少人数で運営されるレザーのファクトリー・ブランドを取り扱っていますが、どのブランドも直截に言えば、「サラリーマンにはできない仕事」をしています。
どういうことか。

企業に所属してモノづくりに携わる場合、たとえば
・複雑な技術がいる工程を簡素化する
・見た目にあまり差異がないなら素材の質を落とす
・部位や個体による革の個性を、均一化する処理をする
といったことは普通に行われることです。

なぜなら、それらは「会社のためになること」だからです。
実際、KIGO内山さんも「大手メイカーは品質・価格ともに最低限のものしか職人に依頼しなくなってしまった」「日本製のカバンがこんなことでいいのか」という気持ちからKIGOを発足させたといいます。
コスト削減や工程を減らす努力をすることは、会社の利益を最大化することであって、それは企業にとっては善です。そして、会社にとっていいことをするのは、働き手であるその人にとっていいこと(評価されるポイント)です。

ところが、レベルの高い小規模ブランドなら、上記のそれらはしません。むしろ、腕の見せどころであったり、デザインや使用感の上で必須なことであったり、革でつくる意味を優先するなら避けられないところだったりします。
そこから逃げずに、不安定な収入と厳しい競争に立ち向かって、本当にいいモノを追い求めないのなら、彼らが一人とか少数精鋭でやる意味はないのです。

もちろん、その分のコストや技術料は価格に正直に反映されます。しかし、それに見合う価値がちゃんとそこにあると信じているから、彼らも私も正当な対価はいただき、つぎの仕事につぎ込みます。
本当にいいモノの価値を届け続けることが、私たちにとっての善だからです。

私(スナワチ代表の前田将多)は自分もサラリーマン出身ですから、組織にしかできない仕事があることも知っています。
それでも、社会が「いいモノを安く」「もっと安く」に驀進してきた結果が、「働いても働いても余裕がない」と、多くの人が疲弊と徒労感を感じる今日の在りようです。

私としては、世の中にはあらゆる志向があっていいし、それが当然だと考えます。
とにかく安いモノがいい人、有名なブランドがいい人、人とかぶらないモノがいい人などなど。その中でも、いいモノへの自分の価値基準を持っている人がこちらを向いてくれるように、スナワチはやっていきたいと思いを新たにしました。
マーケティングや、表層的なブランディングに惑わされないレザーファンからの評価を、少しずつ得ていきたいと思います。少しずつ……

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クリエーティブ・ディレクターの役割

弊社スナワチは、日本の小さなレザーブランドを厳選して取扱うオンラインストアです。

スナワチ自体も小さな会社ですが、おかげさまで顧客満足度は高く、お買い上げくださった方々には大変喜んでいただけております。そういう特別なレザー製品だけを扱っていきたいと考えています。

少しずつブランドを増やしていきたいなぁと、カバンや財布には気を配ってあちこち見に行くようにしているのですが、「これは!」と思えるレザーブランドにはなかなか出合えません。
取扱い製品の選定基準は以前にも書きましたが、いいモノは、まず見た瞬間の顔つきでこちらに語りかけてくるものがあるのです。
「俺を見ろ」
「そこらのモノと俺はちがうぞ」
そんなふうに図々しく主張してくるような気がします。それも奇をてらった風貌で不快感とセットの注目を集めるのではなく、低い声で、静かに「コレだろ」と耳打ちするように私を振り向かせます。

そうしてくるモノと、してこないモノは何がちがうのか、考えてみたところ、それは個人の思考が反映されているかどうかである、と一旦結論づけました。
私の好き嫌いはもちろんありましょうが、作り手の考えがオーラのように製品を包み込んでいるのです。

それは多数決やデータの数値で決まるマーケティングではできないことです。あくまでも個人による美的感覚がかたちづくる結実のような気がします。

日本企業の多くの製品に、少なくとも私がそれを感じることができない理由は、クリエーティブ・ディレクターの不在です。みんなで物事をなんとなく決めてしまうからです。

おそらく製品開発の部署にデザイナーが何人かいて、それぞれがいいと思うモノを企画します。そして、責任者はクリエーティブの最終責任者としてではなく、単に部署の管理者としてそこにいるため、たとえば「これは彼にしてはいい製品だと思う」「彼女のいいところが発揮されている」という個別の判断でGOを出してしまう。
さらには、「これは最近の流行にマッチしている」「売れている○○の製品によく似ている」という理由でOKしてしまう。

挙句の果てに、販売する部署や経営層のフィルターを通すことによって、突出したところ、思い切った部分は丸められ、薄められ、世に出ます。
工業製品の多くはこうしてつくられるから、おもしろくない。

クリエーティブ・ディレクター(CD)の仕事というのは、嫌われ役を買って出ることでもあります。部下のデザイナーひとりひとりの「彼にしては…」は一旦いらないのです。CD自身が描く構想にどれだけ近いか、のみで判断するべきなのです。

デザイナー個人の個性ではなく、CDの個性。それは言い換えれば独断です。
部下にとってはツライ状況かもしれませんが、だからこそCDとの信頼関係がなければ成り立ちませんし、CDは正しい判断をし続けないと信頼は保てません。

ある意味での強権を振るわないといい顔つきの製品はできないものです。もしくは、ハナから一人で設計されなくてはなかなか難しいです。特に、ジョブ・ディスクリプションがなくて、衝突を好まない日本人にはなおのことです。ジョブ・ディスクリプションというのは、「この会社でのあなたの仕事は、○○に責任を持ち、○○をすることです」と業務と責任の範囲を明確にする契約書みたいなものです。

まぁ、私もよその会社の内情は想像でしかありませんが、少なくとも、弊社が取り扱うKIGOは内山さんが、BEERBELLYは若井さんと小山さんが、m.rippleは村上さんが、Tochcaは天崎さん夫妻が、Big Mouse Jimmyは後藤さんが、考えて、設計して、つくっています。
こういうブランドをまた増やしていきたいですが、なかなか……で冒頭に戻ります。

さて、Pop-upストア博多のため、出発しなくてはなりません。

いい顔つきをしたレザー製品を見たいと思ったら、是非お越しくださいませ。

 

2018年3月2日(金)~4日(日)
連日11AM‐7PM(最終日は5PMまで)
ギャラリー・エンラセにて 福岡市中央区大名1丁目2-9

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レザーのにおい

2018年2月某日、sunawachi.com でも取り扱う、東大阪のファクトリーブランドKIGOの内山さんとタンナー、X社を訪ねました。KIGOの代表的製品であるブルハイドを鞣すX社と打合せをするというので、私(スナワチ前田)も同行させてもらったのです。
大阪からおよそ2時間、日本の「レザータウン」である兵庫県姫路市へ。
去年の秋以来で、再び姫路です。

X社は親子二代で営まれています。お父さんの方はご高齢ですので、飛び入り参加の私にもニコニコといろんな話を聞かせてくださいましたが、実質的な作業は息子の一郎さん(仮名)がお一人で行なっているようです。
分厚いブル(去勢されていないオス牛)の皮に時間のかかるタンニン鞣しをほどこし、板に釘で打ちつけて伸ばし、ワックスとオイルを手作業で塗り込んで仕上げるまでのほとんどを彼一人の手で行なっているということです。

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今回KIGO内山さんがタンナーを訪問したのは、依頼していたレザーの出来栄えの確認と、今後つくってほしいレザーの要望を伝える目的です。
しかし、通常、ブランドがタンナーと直接取引をするというのは珍しいことです。前回のコラムでも触れましたが、何十枚という革をいっぺんに鞣したとしても、元は動物であった皮はまったく同じように仕上がってくるとは限らず、バラつきが出ます。傷が多いとか、穴があるとか、薬品の浸透具合、色の染まり具合がよくないなどなどです。
だいたい5枚に1枚くらいはやや程度の劣るものが混じってしまうそうですが、「いいのだけよこせ」とやってしまうと、タンナーは圧迫されます。

中には、担当者が他業界からレザー業界に転職してきたために、そのあたりの事情がわからず、闇雲にクレームを入れてきたりしてお互いに不幸せなことになるケースもあるといいます

レザー業界の中でさえそうなのですから、一般消費者は言わずもがなです。ツルッと滑らかでキズひとつないモノ、どれを選んでも寸分違わず同じモノがよければプラスチック製品でいいのではないかと、私などは思います。それはそれでレザーとはまたちがう良さがあるはずです。

スナワチの製品を好んでくださるようなレザーファンの方々には是非、「レザーは元々生き物。一頭一頭個性もあれば、レザーになっても差異はある」という事実を知った上で、あなたと巡り合ったレザー製品を愛してほしいと思います。本当に、愛し返してくれますから。
福沢諭吉は「世の中で一番美しいことは、すべてのものに愛情を持つことです」と説いたそうです。
誰かの判断ではなく、ご自分の眼でその価値を見抜いて大切に使うことが、人間ができうるモノへの愛情表現なのだと思います。

KIGOは、X社に依頼したレザーはすべて買い取って、パートナーとしての関係を築いてきています。
「……というようなレザーに仕上げてほしいんです。カネはいくらかかってもいいですから」
と言う内山さんの横顔を、私は二度見しました。それくらい特別なレザーを求めて、リスクを承知で、X社と顔をつき合わせて商売をしているのです。

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X社の小さな事務所で、内山さんは次々に要望を伝えていきました。
持参したレザーの見本を提示して、
「こういう風合いのレザーをつくってほしい」からはじまり、
「こんな色合い、艶が表現できないか」
「床処理(革の裏面の仕上げ方)をこのように変えられないだろうか」
「厚みを0.5ミリ薄くしてほしい」
などなど、X社にお願いしている様々な革に対する、多岐に渡る要望を子細に打ち合わせます。
一郎さんは、
「ええっとー……、どこから手をつけようかな」
と多少困ったご様子でしたが、きっとなんとかするはずです。プロですから。
私自身は仕事でピンチの時はいつも、「なんとかならなかった仕事はない!」と念じています。

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最後に内山さんは別のレザーを取り出して、こんなこともお願いしました。
「このレザーのにおい、再現できませんか?」
見た目、手触り、硬さ/柔らかさのほか、こんなことにまで叶えたいイメージを持っていることに、私は驚きました。
(なるほど……、においは盲点かも)
「レザーのにおいが好き」という人は多いと思いますが、それはほとんど鞣しで使われる薬剤のにおいです。顔料を使っている革ならラッカー(塗料)のにおいも含むでしょう。
「これは、タンニンを変えてみる必要があるだろうな……」
一郎さんは何度もレザーを嗅いでみて、思案します。
「さて、アレ(企業秘密)を試してみるかねぇ……」
タンニン鞣しの薬剤というのは、国内では合成タンニンかミモザが一般的で、そのほかにチェスナット、ケブラッチョという植物抽出物があります。薬剤の価格も、仕上がりも、それぞれちがうそれらを、どのような配合で、どういう順番で使うかによって、製法は無限にあるわけです。

そこへ丁度よく現れたのが、X社と取引をしている薬品屋さんのおじさん。
事情を聞いて、そのレザーを嗅ぐと即座に言い当てました。
「あぁ、これはxxxのオイルだね(これも企業秘密ですみません)」
つまり、あるタンニンで鞣したあとに、xxxのオイルで加脂されている、と。
「しかしこれ、ヨーロッパはともかく、日本人は嫌がるにおいだけどいいの?」
「構いません。こうしたいです」
内山さんの決意は変わりません。

私はこの日の打合せだけ同席させてもらったので、内山さんの頭の中にどういうレザーの想定と、どんな新製品の構想があるのかは知りません。
しかしまた、唸りたくなるようなレザー製品を生み出してくれるものと思います。いわゆる一般ウケはしないのでしょうが、スナワチは、お客さんがそれを手にした時の「おぉ!」という表情と、使ってからの満足度合を知っていますから。
KIGOの今後にご期待ください。

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生き物の皮を革にする仕事②

「いい革、わるい革というものはない」と、村木さんは言います。
「靴や服や道具など、様々な用途に合う革、合わない革というのがあるだけです」

なるほど。厳密にはもちろん、手抜き作業で鞣された革、手間ひまを惜しまずに製造された革というのがあり、原皮となる動物にも個体差があることは否めないのですが、それも用途に合致しなくては意味がないということです。

彼が主催した革のタンナー見学会の一行は、姫路でふたつ目の会社に向かいました。

「オールマイティ」の水瀬社長は、モスグリーンのレザージャケットを着て現れました。ちょっとワルなにおいを漂わせるダンディーな男性です。
ここは、デザイナーやクリエイターの要望に応えるべく、それぞれが求める革を1枚から鞣し、染色、仕上げまで行なうという珍しいタンナーです。

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前回で述べたように、レザーというのは大量の水を必要として、大きなドラムやピットなど設備を使って作られます。そのため、一回の作業で最低でも50枚、100枚という規模で鞣しをしないと効率が悪いのです。
その50枚にしても、前述のような個体差のために、化学製品のような均一さというのは実現が難しく、バラつきがでます。そこで生じるリスク(ムダ)を背負って卸会社があり、革を1枚から販売する革屋さんがいるわけです。

つまり、通常、革製品を製造販売するアパレルや革作家が、タンナーと直接レザー素材の売買をしているわけではないのです。中には弊社スナワチが扱うKIGOのように、タンナーと逐一相談しながらパートナーとなってブルの革を鞣してもらっているブランドもあります。有名なブーツブランドであるRed Wingは、自社タンナーを持っています。

我々がこの日訪ねたオールマイティは、牛はもちろん、イノシシ、クマ、馬、ダチョウなどどんな皮でも扱うということです。そして、製作者の求めに応じて、相談から試作から完成まで一貫してお付き合いする。製品の後染めや、顔料の吹付け、グレージング(ガラス玉で革を摩擦して艶を出す加工)、バフィング(革の表面を毛羽立たせる加工)にも対応します。
だからオールマイティという社名なのです。

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姫路には「姫路白なめし」という白い革で作られた製品があります。これは県からの伝統工芸品に指定されているものです。

オールマイティでは、「姫山水(ひめさんすい)」という独自の鞣し技術で得た、白なめしを上回る白さのレザーもあります。
水瀬社長曰く、レザーの天然の色というのは、ベージュ色を想像される方がほとんどかと思いますが、革そのままの色というには真っ白なのです。それはそれは、雪のような白さであるということです。
ベージュに見えるのは、タンニンの渋の色で、つまり薬剤の色なんですね。勉強になりました。

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昭南皮革さん、オールマイティさん、お仕事中に見学させていただきありがとうございました。

私(スナワチ代表の前田)が、どうして革が好きなのか、たまに人に尋ねられた際には、
「革は半永久だからです。なんでもがすぐに出来て、すぐに届いて、すぐにダメになる現代において、動物が捧げた命から時間をかけてつくられ、人の頭と手でかたちにされ、手入れさえ誤らなければ半永久的に使えるからです」
と答えます。
模範解答としてはこうです。実際、その通りと頭の中では常に思っていますし。
しかし、心の中をより深く探ってみると、好きな理由は、理屈を超えたなにかとしか言いようがありません。本を読んだり、こうして人のお話を聞いたりすると、好きだった革がますます大好きになります。いつまでも革を触っていたいと思います。
革に限らず、いいモノを持って世界を歩けば、「それいいね」と声をかけられます。それはブランド名とか、ロゴマークではないのです。
好きなものを堂々と使って、自慢してほしいです。

「人がああ言うとかこう言うとか関係ない。自分が好きなハットをかぶれ」
広告会社を辞めてカウボーイをしていた私が、モンタナ州のある場所で教えられたことです。

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たとえ愛する人であっても、その人の心を所有することはできませんが、愛するモノはそれができる。そして、革はきっと、その愛情に応えてくれます。

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生き物の皮を革にする仕事①

タンナーの見学に行ってきました。タンナーというのは、動物の「皮」を鞣(なめ)して、腐らない「革」にする工場のことです。
大阪は大国町にあるレザークラフトのお店「フェニックス」の村木さんのはからいでの見学でしたが、彼は私(スナワチ代表の前田)が知らなかったことを教えてくれて、いつもお世話になっている「レザー博士」のような人物です。
道中に村木さんから聞いた話や、私がタンナーで見聞きしたことを今回ご紹介します。

向かった先は兵庫県姫路市です。

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ここは、150前後のタンナーが集まった、日本一の革の産地です。イタリアのトスカーナ地方のように、国内ですらそれで有名でないのが残念なことです。

まず伺ったのは主に「ベンズ」を手がける昭南皮革。ベンズというのは、レザーのショルダーとベリー(お腹)を除いたお尻一帯の部分で、滑らかで厚みがあり、線維密度がギュッとつまっているレザーのことを指します。

カービング(模様を彫ること)や、靴底などに使われる丈夫なレザーです。

米国の取引先から仕入れた原皮の倉庫から見せていただきました。
原皮は、牛が牛肉にされたあとに残った皮を防腐のため塩漬けして運ばれます。実は私は、これをカナダの牧場でカウボーイとして働いた時に見た経験があります。
牧場では自分の家族が食べる分の牛は自分たちの手で潰すため、ライフルで撃って皮を剥いで、肉にします。この時、手際よく牛を解体したあとに、足元にはベロリと毛皮が残りました。この肉面に塩をまぶして倉庫に保管しました(写真を載せようと思いましたが、ちょっとグロかったので自粛)。
拙著『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』(旅と思索社)ご参照。

この時点ではまだ「獣」くさいにおいがあり、製品になってしまったあとでは感じにくい、「レザーは元々生き物だった」という事実を否がおうにも思い出させられます。

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いわゆる革のにおいというのはいいにおいですが、あれはほとんど鞣しの際に使われる薬剤のにおいです。レザーに獣くささが残っているような革は、あまり鞣しの質がよくないのではないでしょうか。

原皮はこのような巨大な洗濯ドラムのような装置に入れられて、塩や汚れを落とします。

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次に、石灰水と一緒に回されます。それにより線維が柔らかくなり膨張します。そうやってできた線維の間に、鞣しの成分を浸み込ませるイメージです。
このように、革づくりには大量の水が使われます。村木さんのお話では「革一枚をつくるのに、水1トンがいる」とのことです。そのため、タンナーはたいてい良質の水が得られる川の近くに建てられます。
姫路市では革業界を保護する意味もあり、鞣しで出る排水処理には支援が行われているそうです。「革の町」ならではの取り組みです。

昭南皮革では、タンニン鞣しを行なうので、このようなピット(槽)に長時間漬け込まれます。タンニンというのは、ミモザに代表される植物から抽出される「渋」と思ってください。

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様々に配合されたタンニンに漬けられ、薬剤が均一に浸透するよう、吊った皮は動かされるようになっています。工場の電気を止めてしまうお正月にも、交代で職員がやってきて、棒で押して動かすそうです。

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何ヶ月もかけてじっくりと漬けられるのが、タンニン鞣しのレザーがクロム鞣しに比べて高価な理由です。
*レザーのクロム鞣しとタンニン鞣しに関しては過去のコラムをどうぞ。
ここからさらに、再鞣しや乾燥、仕上げといった、それぞれに気を使う工程がまだまだ続いて、やっと皮が革になります。

このタンニン剤の混ぜ具合、漬け込む順番や期間などが、それぞれのタンナーの秘伝の技法といいますか、企業秘密になっていて、各社の特色を生んでいます。

つまり、ひとつのタンナーがあらゆるレザーを鞣すことができるわけではなく、タンナーごとに得意分野・専門的なノウハウがあって、「うちはこれだ!」という自慢のレザーを鞣しているわけです。

そして、重要なことは、自慢のレザーであっても、扱う相手は前述のように「元々は生き物」ですから、個性もあれば差異もあります。そのため、いつも同じように一定・均一の製品をつくることは難しく、同じように作業を進めても毎回ちがいが生まれてしまいます。その差を極力小さくするのが、タンナーの腕の見せどころでもありますが、限界があります。

しかしながら、レザーは自然素材であるからこそ、レザー製品には文明社会に手懐けきれない神秘性があると私は考えていて、そこがたのしみです。カバンに元からあるキズ、財布にあるシワなどなど。その個性との一期一会を大切にしたいとスナワチは考えています。

いわゆるマーケティングにより「高級」とされた製品たち(と私はあえて書きますが)の多くが何をしているかというと、レザーの表面に顔料塗装をほどこして文字通り「糊塗」したり、型押しによって表情を消しています。そうなると、ほぼ無機質な感触の、ほとんどプラスティックのような“レザー”です。
そうやって、レザーに関して無知でもおカネだけは持った顧客からのクレームを排除しようとしているわけです。

 

昭南皮革の三代目になるという社長は、「うちはこれしかでけへんけど、こういう手間をかけて、この値段で、それでもよければ…、というスタンスでやってきていますねん。むしろ、それがよかったのかも」と、自信をにじませた笑顔を見せました。

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姫路にはもう稼動していないタンナーもそこここにあり、個性と価格のバランスを維持できなかったところは続けられなくなってしまったのです。

生き物だったものが、あなたの持ち物になるという不思議と崇高を、レザー製品を使う度に感じてほしいと、スナワチは願います。

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テスト・ライド

日本には「ジーンズの町(岡山県の児島)」もあれば、「靴下の町(奈良県広陵町)」もあれば、「カバンの町(兵庫県の豊岡)」もあることをご存知でしょうか。

そして、「手袋の町」もあります。香川県東かがわ市です。
国産の手袋のおよそ9割を製造するにもかかわらず、訪れてみると小さな町です。
昨今は廉価な外国製に押されていると云いますが、中にはちゃんと独自の技術なり哲学を持って、日本製らしい優れた手袋をつくり続けている会社があります。

スナワチがコラボ先として組んだのが「香三堂」です。
通常ではありえない、50サイズ以上の型を持って、フィットのいい手袋をつくっています。なぜそんなにたくさんのサイズを持たなくてはいけなかったかというと、香三堂の創業者はモーターサイクル用の手袋を製造してきた経験から、安全性を確保するしっかりしたレザーを使いながらも、フィットがよくて操作性を損なわないという、相反する手袋を手がけてきたからなのです。
そのために多様な手のかたち・サイズに応えようとしているわけです。

2017‐18の香三堂×スナワチのコラボ・レザーグローブが発売になっております。
今回、レザーも裏地も新調したため、私、スナワチ代表の前田が「テスト・ライド」に出かけてみました。

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※はじめにお断りしておきますが、香三堂×スナワチのコラボ手袋は、自転車やバイクの運転用ではありません。あくまでもタウン用モデルなのですが、本格的な冬の到来の前に指先が冷たくなる環境を得るために自転車に乗りました。
運転の際にかかる体重による負荷や、汗の塩分、レバーを繰り返し握る操作は手袋に負担をかけますので、専用の手袋をお使いください。ただ、通勤や通学の時に自転車で近距離を行く程度なら問題はないでしょう。

だいたい片道10km程度の軽いサイクリングでした。
陽が暮れる頃を見はからって出ましたが、ほとんど手の冷たさは感じません。

裏地の吸湿保温素材「ソリスト®サーモ」、なかなかよいです。

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私は自転車初心者なのでスピードは出しません。NHK『こころ旅』の火野正平さんに毛が生えた程度です(文字通りの意味ではありません)。

愛車はアラヤのMuddy Fox CX Gravel
若いおにいさんがやっている近所の自転車屋さんに「スピードはいらないので、タフな道も行けるやつ」と希望を伝えて選んでもらったものです。

テスト・ライドの目的地はこれです。

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帰路には夜になり気温は一桁に下がりましたが、自転車を漕いでいたため暑くなってきました。

そして、新品だった手袋は、より馴染んだ感じになりました。まぁ、早い話がハンバーガー食べに行っただけなのですが、この程度のサイクリング、寒さなら、手袋に全然影響なし。

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オーダー製作になりますので、ご注文からお届けまで2週間前後いただきます。
「手長(中指から手首のシワまで)/手囲い(自然に開いた手のひらの一周)/中指」
をメジャーで計測してご注文ください。
どなたかに測ってもらうとより正確にできると思います。
ご不明な点は遠慮なく
✉info@sunawachi.com
までお尋ねください。

通常のSMLのサイズで合う手袋が見つからない方、
自分にぴったりの手袋をしたい方、
気持ちよくて暖かい手袋を探している方、
男女を問わずご注文をお待ちしています。

http://sunawachi.com/products/detail.php?product_id=25

 



「軸足はちょいダサ」  

スナワチを発足させてもうすぐ2年になります。

経営方針を文章にしているわけではありませんが、言うなれば、反急成長、反流行です。その時々に流行っているものを追って、他社のヒット商品をパクッたり、ウワベだけの日本製とか本物のような惹句を並べてみるような恥知らずはやめておきたいと思っております。

その場しのぎのウソは大手のサラリーマンに任せておけばいいくらいに思って、どうせ小さな会社で、なんとか小さなままでいられないだろうかと虫のいいことを考えている弊社は、せめて世間にウソだけはつきたくないと日々思います。なんせ、ウソばかりの世の中ですから。

バカにしているのではありません。私自身も大手のサラリーマンであった経験を踏まえて、大量生産品を大衆に売らなくてはいけない図体のデカい組織は、その時一番売れるモノに飛び付いていく瞬発力で勝負するしかない哀しい事実を知っているだけです。鼻息の荒い経営者は別として、そこで働く労働者で、それに哀しさを覚えない人がいたら手を挙げてほしいです。

 

スナワチでは、取り扱う製品を決める際の選定基準だけは、言語化していまして、これは何度でもここに書きます。
道具として無駄がない革製品
革製品はあくまでも使われてこそ良さを発揮します。飾って眺めるものではないのです。

一貫した哲学に基づくデザイン
デザインの細部一つひとつに意味があって、理由がある。意味のない装飾は不要です。
革本来の手触り、風合い
レザーは元々獣ですから、それらしい表情と質感があって当然です。プラスティックや化学繊維のような均一性は一旦脇に措きます。
野性と知性を醸す凛々しさ
その獣の皮だったものを道具として持つ人には、知性が漂うべきです。矛盾するようですが、歴史的にも、そこが革の神秘的なところです。
持つ人に満足を与えられる存在感
革をふんだんに使った製品にはそれなりの重量ないし迫力が出るものです。

 

さて、カバンと財布のみでスタートしたsunawachi.comは、小物類も増やして、少しずつ充実してきました。製品ラインナップを眺めて、我ながら思うことは、
「うーん、ちょいダサだな……」
ということです。これは狙い通りというか、そうなるべくしてなったのです。
流行というものは、製品が持つ時間軸と、使い手の時間軸(ライフステージ)で見る必要があります。
まずはその製品やブランド名が、「今」にマッチしているのか、どうなのか。デザインや用途が現代、というかもっと言えば、この瞬間的な今に合致するものなのか。
そして、それを使うあなたの年齢や置かれた立場に適合したものなのか。


たとえば、「今20代である男性/女性のためにつくられた製品を使うあなたは、今20代の男性または女性なのか」という、製品の時間軸と使い手の時間軸が交差したポイントでもっとも「いいね!」となるわけです。
わかりやすく言えば、若者のためにつくられたモノを、私(スナワチ代表の前田将多)のような40代のおっさんが使っても、大抵の場合は「よくないね!」なのです。

ところが、レザー製品、特にスナワチが扱うような十数年もしくはそれ以上に渡る使用を前提にしたモノは、点ではなく、線で使う人に寄り添うべきものです。
あなたが40代になっても、50代になっても持つに足り、もしかしたら、次の世代まで受け継げる可能性まで秘めたものとしてのレザー製品です。
だから、ちょいダサなのであり、それこそがカッコいいと、我々は信じているのです。

実際、私の持ち物は、20年以上履いているブーツ、十数年着ている革ジャン、何年も使い込んだカバン、この先も何年にも渡って持ちたいハットや財布などなどで、どれも今風でなかろうが、多少ボロかろうが、愛してやみません。それらを手に取る時、ちょいダサい人間としての私は、深い満足を覚えます。

それは、買った日とはまた異なる種類の、静かな通奏低音のような喜びです。

 スナワチは、これを提供したいと思っています。今ではなく、何年もあとになってです。
最も手っ取り早いオシャレが流行を追うことです。これは言うなれば簡単なことです。ずっとカッコよくあることは難しいことです。なぜなら、今は見えない何かを見据えなくてはいけないからです。

追うべきは、流行ではなく、永遠なのです。

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