sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

「財布とかカバンとか、いらない社会」

スマホが殺したものを数え上げればキリがありません。
まず、書籍、そしてゲーム機。それから、ラジオや音楽プレイヤー、コンパクトカメラ。その他、計算機、手帳、ペンなどもかなり喰われています。

電子決済がもっと普及したら、そのうちに財布も不要になってしまうかもしれません。
レザー製品を取り扱うスナワチとしては、困った事態になります。

電子決済は、日本ではまだ18%と浸透が遅いようです。チャイナ60%、アメリカ46%、インド38%だといいます。

style.nikkei.com

最近はタクシーでは減ってきたように思いますが、確かに、バーなどでは「現金のみ」というお店はまだまだ多いです。

日本のキャッシュレス化が進まない理由としては、
・都市生活者が多く、ATMがどこにでもある。
・安全。他人にカネを奪われる確率が低い。
・貨幣への信頼性が高い。偽札がほとんどない。
・決済サービスの乱立。あれこれありすぎて選べない。お店側も端末の用意や、審査手続きが煩雑。
・なんか怖いという意識が根強い。
などが挙げられます。

しかし、全国のATMにお金を準備する配送費や維持費が、銀行各社の大きな負担となっており、経済産業省は2027年までに電子決済普及率を40%までもっていく目標を定めています。

これは時代の潮流であり、国の要請ですから、そのうちにそのようになるでしょう。

アップルや楽天、ケータイ各社や、量販系/交通系決済会社が電子決済システムを持っているのは、個人データの取得のためです。誰が、どこで、なにを、いくらで買ったというデータを、膨大な量になるまで集めて、サービス開発に活用して、抜きんでようと競っているわけです。

生活者からしたら気持ちの悪い話でしょうけど、これももはや避けられないことです。
フェイスブックが出てきた時に、「これは個人情報を無料で集めて、分析して、個人に合った小口~大口の広告を企業に売るサービスだ(気持ちわりいっ)」と、私は感じていましたが、やがて気づきました。
「個人にとっては、自分の個人情報なんておよそ意味がない」ということに。

事実、私はフェイスブックをはじめとしたSNSも使っていて実害はない(認識していない)し、フェイスブック社の個人情報漏洩は8700万人分以上という大規模な事件でしたが、日本ではさほど話題にもならかった印象です。
それは個人にとっては痛くも痒くもないのに、国家レベルでの損害が懸念される(はっきりとは見えない)、という二重構造があるからでしょう(もちろんアメリカでは大スキャンダルでしたが、FB社は潰れることもなく存続しています)。

官民一体の目論見により、キャッシュレス化は促進されます。
スナワチに関しては、レザーの財布だけでなく、もしかしたら、将来的には、人はカバンすらも持たなくて、スマホ(ともすでに呼ばれない端末を)ひとつ持って、なにもかも用事は済ませられるような社会になるかもしれません。

それでも、あまり悲観もしていません。

時代が変わるなら、それに即したレザー製品を考案してもいいでしょう。いつの世も服は着てるでしょうから、いつか革ジャンもつくりたいですし。帽子もいいですね。

レザーと人の結びつきというのは特別なものがあると信じておりますので、化学素材やハイテクデバイスにさほど簡単に駆逐されるとは考えていません。

なにより、レザーはカッコいいから。
丁寧に縫われた財布、手応えのあるカバン、光沢が艶めかしい革ジャン、ちょっとした存在感を放つ脇役としてのレザー小物など、持っていたらカッコいいですから。
ハイテク製品と合わせて持っても、なおカッコいいですから。

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もちろん、カッコいい悪いのセンスも時代とともに変化しますが、これは理屈ではないんですよね。

頭で考える部分と、心で感じる部分を、両方バランスよく持って生きていきたいと、難しい時代だからこそ思います。

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大阪市西区阿波座1丁目2‐2

「僕の仕事、みんなとの仕事」

スナワチ大阪ストアでは、KIGO特集をしています。
ブルハイド(去勢していないオス牛の革)を使ったカバンが代表作である、ものづくりの町、東大阪のレザーブランドです。

ブル以外にもカーフ(生後6カ月以内の仔牛)、キップ(6カ月から2年程度の若い牛)、羊、山羊など、さまざまなレザーを採用したカバンが店内に置いてあります。

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先日、友人が店にやって来て、

 と言います。
たしかに、似ているどころか、おんなじかたちです。
KIGO代表の内山さんに訊いてみました。なかなかおもしろい話を聞くことができました。

「これは、僕が元々いた会社で修業中に作ってたものですわ。僕が最も尊敬するバッグ・デザイナーが手がけたもので、僕はまだまだ下っ端でしたから、作ってたと言えるかどうかわかりませんけど……」

いえ、作ってたんですよ。

私は以前、テレビCMを作っていましたから、それについては思うことがあります。
CMは、広告主がいて、その仕事を獲得してくる営業がいて、表現を統括するクリエーティブ・ディレクター、企画するプランナーやコピーライター、またはアートディレクター、予算とスケジュールを管理する制作会社のプロデューサー、さまざまな推進業務や雑務をこなすアシスタント、CMの演出を取り仕切るディレクター、あたりが主要な制作陣で、これだけですでに多くの人がいます。
撮影ともなれば、カメラマンとそのアシスタント、照明さんたち、セットや小道具を扱う美術さん、出演者とその事務所スタッフ、そのヘアメイクさん、スタイリストさん、撮影スタジオの人、編集スタジオの技師、音楽スタジオの技師、CGを作る技術者などなど、実にたくさんの人たちがかかわります。

その全員が「あのCMは私が作った」とは、そりゃ言えはしないだろうとは思うのですが、「私も、みんなと作った」くらいは言っていいのではないかと感じます。

このカバンは、Dカン(金属ループ)がたくさん付いていて、ハンドルやショルダーストラップの位置を付け替えることによって、トート→ショルダー→ブリーフケースのように3WAYで使えるという優れたものです。

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内山さんによると、「その当時は月に500個売れていた」そうです。
「日本のバッグ業界の遺産です」とまで評していました。

デザインもよく計算されたもので、「なにかが売れると、すぐにパクッた商品が出てきますよね。これもそうでした。でも、安易にパクッたものはぜんぜんちがった。こうはカッコよくなかった」と言います。そのデザイナーに惚れ込んでいたことが窺えます。

これをオリジナルで開発したブランドはもうなくなってしまい、そのデザイナーさんもすでにこの世を去ってしまったそうです。

内山さんがご自分のブランドを持つようになって、当時の仕事仲間から「あれ、復刻してよ」と乞われて作ったのがこのカバンで、今後も継続的に作る予定は、ないと言います。

スナワチ大阪ストアは、開店してまだふた月半です。それでも、おもしろいことが毎日のように起きて、楽しいものです。
10年以上使っているバッグの持ち主は、知りえなかった製品の背景に触れ、作り手は、若き日に畏敬の対象にしていた人と、自分の過去の仕事にまた巡り合う。

人とモノ、記憶や想いの邂逅に立ち会うことができて、レザー屋冥利に尽きる思いでした。

スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1‐2‐2
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「ゴトウ」

スナワチ大阪ストアの店長にしゅうにんした、ジョージです。ただのかんばん犬からしょうかくしました。

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社長のショータがいそがしそうなので、今回のれざーこらむはボクが書きます。
ボクのさいきんのおきにいりであるゴトウについて書きます。

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ゴトウは革しょくにんとしてスナワチにいます。ボクは店長ですが、ゴトウはしゃいんではありません。だから、ボクとのかんけいはたいとうなゴトウです。

これまではおおいたけんの工房でれざーのかばんとかさいふをつくっていましたが、スナワチ大阪ストアのかいてんに合わせて、大阪にひっこしてきました。

4才のボクがいうのもナンですが、ゴトウはこどもみたいなやつです。

にがいものはたべられません。ブラックこーひーも、びーるも、わさびもダメです。
おんせんで有名な、おおいたのゆふ市というところにいたのに、お風呂がきらいです。

大阪にくるまで、ぎょうざの王将を食べたことがなかったそうで、ショータがつれて行ったら「はじめてです!」とよろこんでました。アホみたいにタレをいっぱいつけて、ショータが「えん分とりすぎやぞ」と、ひいてました。
ゴトウは、大阪の「くじょう」というところに部屋をかりてすんでいます。この前、おみせを閉めながら
「くじょうは帰り道にゆうわくがおおいからなー」
とにやにやしているので、がーるずバーでも見つけたのかと思ったら、
「王将もあるし、マックもあるんだよな~」
とむふむふしていました。ゴトウはこどもか。

ゴトウはいなかものなので、大阪のみなさんやさしくしてあげてほしいです。ヨメさんもみつかりますように。

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ゴトウは、仕事はとてもまじめです。
いつもちゅうもんをうけた革のものをせっせとつくっています。
こんどボクもしどうしてやろうと思います。

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「おおいたにいたころは、朝ハチじから夜じゅういちじまでつくってたから、もっとつくりたいです」
と、スナワチはシチじへいてんなのでいいます。
ボクはらいふわーくバランスをこうりょして、うんちしたくなったら帰るけど、ゴトウはのこってしごとしててもかまわないのですが、
「でも、夜なかまでここでつくってたら、大阪だと強盗におそわれますかね……」
と心配しています。大阪のみなさんくれぐれもゴトウにやさしくしてあげてほしいです。

 

ゴトウは高こうをそつぎょうしてから、だいくさんのしごとをしていましたが、床せんもんのこうじ会社だったのでまいにちまいにちしごとがあるわけでもなく、しょうらいをふあんししてやめました。

そして、むしょくになって、半年くらい釣りばかりしていたそうです。そのほうがしょうらい不安やろ。

そのうちにオートバイにのるようになって、まわりのひとたちの革のさいふとかにきょうみをもったそうです。やまはSR、ほんだドラッグスター、そしてハーレーにのったのにいまはのっていないのです。
「なんでやめたん?」
とボクがきいたら、
「だって雨粒がいたいんですもんー。冬さむいし」。
ゴトウはこどもか。

そんなきっかけで、当時はわかくておカネもなかったゴトウはさいふをじぶんでつくろうとしました。いんたーねっともないじだいだったので、ともだちと
「革にはじめに穴をあけてからぬうらしいぞ」
とはなし合って、「穴をあけたらいいんだな」と、クギでさしたりしたそうです。
ぜんぜんダメで、そのうち師しょうをみつけて、バイトだいのないバイトみたいなかんじでてつだいながら、おそわりにかよったということです。
きそを学んで、あとはどくがくです。

ゴトウは手でぬいますから、ひとつひとつじかんがかかります。でも、手をぬくことなくもくもくとつくります。下地のしょり、いっぱつしょうぶの裁断、いとに蜜ろうをぬっておこなう縫製、コバ(革のだんめん)のみがきなどなど、ボクにはわからないこまかいのうはうがあるみたいです。
「納得いかないモノは店に出したくないんですよー」
といいます。

「ここ、どうですか?」
とたまに、じしんたっぷりなかおで、ひじょうにまにあっくなぶぶんをボクにみせてきますが、
「お、おう、いいね」
と、さいふとかかばんをつかわないボクはかえします。ボクは店にくるとき、かばんにはいるだけです。

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このまえ、あたらしい革がとどいて、それのじょうたいがよかったため、ゴトウはまたむふむふしていました。

ゴトウは、むずかしいおーだーをうけると「う、うーん」とうなっていますが、くふうをかさねて、ちゃんとしたものをつくります。もちろんムリなときはムリといいますけど、こころをこめて仕事をするいいおとこです。

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ボクは店長なのにいつもはいませんが、ゴトウはスナワチにいますから、いろいろみたりそうだんしに来てほしいです。

ボクも、おやつをたべすぎておなかがぽっこりしてきましたが、ゴトウはそとに出ず、なんでもねっとでかってすませるので、おなかがでてきました。大阪にきてからは、じてんしゃにのって、べるとの穴がふたつもどったとどや顔します。しらんわ。
みなさん、ゴトウをつねにいそがしくしてあげてください。

さて、書けたよ。さいごはいちおう店長らしいこと言うといたからな、ゴトウ。

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スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1丁目2-2
(大阪メトロ「本町駅」出口21よりすぐ)

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「なんだか特異な店」

スナワチの店舗が、大阪は本町にできました。

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オンラインストアとして2015年に発足したスナワチですが、レザーという製品の特性から、実際に見て、触って、嗅いでいただくという必要性は常に感じておりました。
そのため、POP-UPストアとして、これまで東京、大阪、京都、博多で期間限定のイベントを行なってきたのですが、そこでレザー製品に触れたお客さんたちの表情を見て、これはがんばって店をつくるしかないな、と意を決したわけです。

その計画をBig Mouse Jimmy後藤さんにお話ししたところ、「一緒にやりたい」と言うので、彼を大分県由布市から大阪に呼び寄せて、店舗内にアトリエを併設することにしました。

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「こんな店にしよう」という構想は明確にあったのですが、これにはモデルがあります。
アメリカはポートランドの郊外に「ラングリッツ・レザース」という、モーターサイクリストには世界的に有名な革ジャンブランドの本店兼工房があります。手作業のため、日産6着しかできないという頑固なイメージを持つ、厳めしい革ジャン屋です。
私は友人たちと5年前にアメリカを旅行した際に、この店に行ったことがあります。
ほぼ住宅街にあるようなロケーションで、ショウウィンドウがあるわけでもない店構えは一見、雑貨店かなにかと見間違えそうです。

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私は友人たちと中に入るのを一瞬躊躇したほどです。だって、店の中に、ヒゲ面のバイカーとか、革ジャンを着たでっかいアメリカ人のおっさんたちがたむろしていて、ジロッと睨まれたりしたら、めちゃくちゃいづらいじゃないですか。

勇気を出して足を踏み入れると、ショーン・ペンのような容貌の、髪の毛をオールバックに撫でつけた男性が迎えてくれました。腕はタトゥーで覆われています。

「コーヒーかコーラ、いるかい?」
いきなり訊かれて私は面食らいました。やっとのことで、「え、えーと、コーヒー」と答えると、彼はマグカップに入れたコーヒーを出してきました。もうひとり、年配の男性店員がそこにはいました。もしかしたらオウナーかもしれません。
「そっちが新品で、ここらへんが中古。あっちは女性モノ。ゆっくり見てってくれ」

店内には革ジャンがひしめくように展示されています。私たちはあーでもないこーでもない、いえ、あれもいい、これもカッコいい……と、興奮しながら試着しました。
結局、私はレザーヴェストを、友人の大谷さん(仮名)は革ジャンを購入しました。会計の時に大谷さんが言いました。
「『僕は18才の頃から、ラングリッツに憧れていました。今日、ここに来られてとてもうれしいです』と、前田さん(私)、英語で伝えてください!」

オッケー。私がその通りに伝えますと、ショーン・ペンと、もうひとりの男性は、笑顔を見せ、「そうかそうか」と、店の奥からひと掴みのラングリッツ・ステッカーの束を出して、私たちにくれました。それから、アメリカンサイズのレザー・メンテ用クリームも。
クリームなんて少量ずつしか使いませんから、それは今でも我が家にたっぷり残っています。

とても素敵な経験でした。私たちにとっては、海外旅行という非日常であったことも事実ですが、彼らのあの、お客との距離感や、ごく自然に「コーヒーかコーラいるかい?」と尋ねる気さくな態度。カッコよかった……。

「オレも自分の店を持つならあんなふうにやりたい」と、現実に店を持つなんて夢にも思わない、当時ただの電通社員だった私は思いました。

「今から5年前の自分を思い出してみてください。今のあなたは、当時思い描いていた場所にいますか? ちがうでしょう? ということはつまり、5年あれば、人生はいかようにも動くということなんです」

私のアメリカでの大学時代に、教授が学生たちを激励して言った言葉です。5年あれば、人生は想像もつかないようなことになっている。この先のメッセージは人によってさまざまに解釈も可能です。
だから、流れに身を任せて、努力なんかしなくてもいい。
だから、少しずつたどり着きたい場所へ近づこう。
だから、先の心配なんかしないで、好きなことを追求してみよう。

私は、今日、昼間に店を訪ねてくださった新しい友人にコーヒーを淹れました。
彼は「楽しい時間をありがとうございました。今、すごく嬉しい……」
と、ツイッターに喜びの声を書き込んでくれました。

いえいえ、私と後藤さんの方こそ、すごくすごく、嬉しいですよ。

スナワチ大阪ストアは、日本の小さなレザーブランドを扱うお店で、特別なレザー製品しか置きません。有名ブランドはありませんので、特別な人にしかこの良さはわからないでしょう。
取り扱いブランドのひとつであるBMJ後藤さんは、ここでさまざまなオーダーや要望にもお応えします。
ラングリッツのような名店になれるかどうかはわかりませんが、レザーファンにとって特別な場所、他には見かけないなんだか特異な店、にはなりたいと思っています。

スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1丁目2-2
(大阪メトロ「本町駅」出口21よりすぐ)

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「結婚もレザーも、メンテ次第で一生もちます」

友人の結婚祝いには、キッチン用品とかペアのグラスなどの食器、お酒、タオルなど、さまざまな品物が考えられますが、私(スナワチ代表の前田)は、この仕事をはじめる十数年前から、レザーのカバンを贈ってきました。
財布は人それぞれの好みや、コインは別に持ちたいとかカードをたくさん入れたいとか用途のバラつきが大きいのですが、カバンならまぁ、オケージョンによって使ってもらえることもあるかな、と。

渡す際にはいつも、カバンにメッセージを付けます。
「レザーのカバンも、結婚生活も、メンテ次第で一生もちます」

私にはアメリカに友人がいまして、ケンタッキーに住むロブという男です。
彼との出会いは不思議なもので、私がケンタッキーの大学寮に住んでいた90年代、そこにいた2年間のうち、最後の学期になるまで話したことはありませんでした。
自転車好きのデカいやつが、私の部屋の斜め向かいに住んでいることは知っていたのですが、いわゆる「Jock(体育会系バカ)」っぽい男だと思って、すすんで話すことはなかったのです。

ある時、共用のキッチンで私が料理をしている時に、バターがないことに気づき、すぐそばの彼の部屋をノックしました。
「なぁ、バター持ってないか?」
と、私は訊いたのですが、butterの発音が悪くて、彼は一度部屋に引っ込むと、自転車用のボトル(bottle)を持って出てきました。
「あ、いや、ちがうんだ。バター、バラー、えーと、料理用のグリースだ」
「ああぁ、わかった。オーケー」

それで私たちは知り合い、ひんぱんに話すようになりました。話してみると、彼は思慮深い、いい男でした。当時はよくモテましたし。

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フットボールの投げ方を教えてくれたのも彼でした。回転をかけて投げると、驚くほど遠くへ飛ぶのが楽しくて、よく寮の庭でキャッチボールをしました。
ある時、寮の仲間たちとホットチキンウィングを食べに行って、一番の激辛を注文したところ、辛すぎて夜眠れなくなりました。
彼も同様だったみたいで、明け方までまたキャッチボールをしたものです。

私が卒業して帰国する時はさびしかったですが、その後も何度もケンタッキーを訪ねて、彼に会いに行きました。この20年で6回か7回ほども行っているでしょうか……。

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彼が結婚した時には、日本製のレザー・トートを贈りました。
もちろん例のメッセージを添えて。

トートバッグというのは、アメリカ人男性からすると、やや女っぽいイメージがあるようで、「俺が使っても大丈夫か?」と心配そうに言っていました。
一男一女に恵まれたにもかかわらず、残念なことに、数年後、彼は離婚してしまいました。アメリカ人らしいと言ってしまえばそうなのですが、どちらかが、もしくは双方が「メンテ」を怠ってしまったのでしょう。
レザーだって、カビも生えれば、ヒビが入ってしまうこともあります。

当時の奥さんと離婚訴訟になった時には、大阪で会社員をしていた私の携帯電話に突然国際電話があり、私は何事かと慌てました。
彼は子供の心配ばかりしていました。かなりキツイ訴訟だったようで、
「いったん心を鎮めるために、日本でにも息抜きに来たらどうだ」
と提案した私に、父親としてちゃんと能力を持っていることを証明しなくてはいけないから、ここを離れることはできないと言いました。

彼は、まだ日本に来たことはありませんし、アメリカ人の多くがそうであるように、外国へ行ったことはありません。あ、カナダは外国にカウントしませんので悪しからず。


ロブはいまは再婚して、お互いの連れ子と大きな家族として、ケンタッキーで暮らしています。体重が20キロほども増えて、あの頃とは別人のようですが。
ちゃんとたまにはメンテはしているだろうか。オレも人のことは言えねえけどさ……。

いつか、あのカバンを手に日本を訪れてくれることを、私は楽しみに待っています。

 

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サラリーマンにはできない仕事

スナワチPop-upストア博多、無事に終了しました。足を運んでくださった方々へ御礼申し上げます。

Pop-upストアをやると、弊社で取り扱う各ブランドが一覧できて、私はもちろん、立ち寄ってくれるブランドの方にも他社が手掛けるレザー製品を見られて興味深いみたいです。

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昨年、大阪でやった時にはKIGO内山さんが見えて、Tochcaの製品に「ほえぇぇ」と感心されていましたし、今回はBig Mouse Jimmy後藤さんが大分県から、Tochca天崎さんが広島県から来てくれました。天崎さんはm.rippleの製品をシゲシゲと眺めて、「この素材で、この手間だったら、割安ですねぇ……」と。
クラフツマン同士、モノを手に取ればいろいろなことがわかるようです。

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その晩、天崎さんと飲んでお話しして気付いたことを書き止めておこうと思います。

スナワチは、ひとり、ないし少人数で運営されるレザーのファクトリー・ブランドを取り扱っていますが、どのブランドも直截に言えば、「サラリーマンにはできない仕事」をしています。
どういうことか。

企業に所属してモノづくりに携わる場合、たとえば
・複雑な技術がいる工程を簡素化する
・見た目にあまり差異がないなら素材の質を落とす
・部位や個体による革の個性を、均一化する処理をする
といったことは普通に行われることです。

なぜなら、それらは「会社のためになること」だからです。
実際、KIGO内山さんも「大手メイカーは品質・価格ともに最低限のものしか職人に依頼しなくなってしまった」「日本製のカバンがこんなことでいいのか」という気持ちからKIGOを発足させたといいます。
コスト削減や工程を減らす努力をすることは、会社の利益を最大化することであって、それは企業にとっては善です。そして、会社にとっていいことをするのは、働き手であるその人にとっていいこと(評価されるポイント)です。

ところが、レベルの高い小規模ブランドなら、上記のそれらはしません。むしろ、腕の見せどころであったり、デザインや使用感の上で必須なことであったり、革でつくる意味を優先するなら避けられないところだったりします。
そこから逃げずに、不安定な収入と厳しい競争に立ち向かって、本当にいいモノを追い求めないのなら、彼らが一人とか少数精鋭でやる意味はないのです。

もちろん、その分のコストや技術料は価格に正直に反映されます。しかし、それに見合う価値がちゃんとそこにあると信じているから、彼らも私も正当な対価はいただき、つぎの仕事につぎ込みます。
本当にいいモノの価値を届け続けることが、私たちにとっての善だからです。

私(スナワチ代表の前田将多)は自分もサラリーマン出身ですから、組織にしかできない仕事があることも知っています。
それでも、社会が「いいモノを安く」「もっと安く」に驀進してきた結果が、「働いても働いても余裕がない」と、多くの人が疲弊と徒労感を感じる今日の在りようです。

私としては、世の中にはあらゆる志向があっていいし、それが当然だと考えます。
とにかく安いモノがいい人、有名なブランドがいい人、人とかぶらないモノがいい人などなど。その中でも、いいモノへの自分の価値基準を持っている人がこちらを向いてくれるように、スナワチはやっていきたいと思いを新たにしました。
マーケティングや、表層的なブランディングに惑わされないレザーファンからの評価を、少しずつ得ていきたいと思います。少しずつ……

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クリエーティブ・ディレクターの役割

弊社スナワチは、日本の小さなレザーブランドを厳選して取扱うオンラインストアです。

スナワチ自体も小さな会社ですが、おかげさまで顧客満足度は高く、お買い上げくださった方々には大変喜んでいただけております。そういう特別なレザー製品だけを扱っていきたいと考えています。

少しずつブランドを増やしていきたいなぁと、カバンや財布には気を配ってあちこち見に行くようにしているのですが、「これは!」と思えるレザーブランドにはなかなか出合えません。
取扱い製品の選定基準は以前にも書きましたが、いいモノは、まず見た瞬間の顔つきでこちらに語りかけてくるものがあるのです。
「俺を見ろ」
「そこらのモノと俺はちがうぞ」
そんなふうに図々しく主張してくるような気がします。それも奇をてらった風貌で不快感とセットの注目を集めるのではなく、低い声で、静かに「コレだろ」と耳打ちするように私を振り向かせます。

そうしてくるモノと、してこないモノは何がちがうのか、考えてみたところ、それは個人の思考が反映されているかどうかである、と一旦結論づけました。
私の好き嫌いはもちろんありましょうが、作り手の考えがオーラのように製品を包み込んでいるのです。

それは多数決やデータの数値で決まるマーケティングではできないことです。あくまでも個人による美的感覚がかたちづくる結実のような気がします。

日本企業の多くの製品に、少なくとも私がそれを感じることができない理由は、クリエーティブ・ディレクターの不在です。みんなで物事をなんとなく決めてしまうからです。

おそらく製品開発の部署にデザイナーが何人かいて、それぞれがいいと思うモノを企画します。そして、責任者はクリエーティブの最終責任者としてではなく、単に部署の管理者としてそこにいるため、たとえば「これは彼にしてはいい製品だと思う」「彼女のいいところが発揮されている」という個別の判断でGOを出してしまう。
さらには、「これは最近の流行にマッチしている」「売れている○○の製品によく似ている」という理由でOKしてしまう。

挙句の果てに、販売する部署や経営層のフィルターを通すことによって、突出したところ、思い切った部分は丸められ、薄められ、世に出ます。
工業製品の多くはこうしてつくられるから、おもしろくない。

クリエーティブ・ディレクター(CD)の仕事というのは、嫌われ役を買って出ることでもあります。部下のデザイナーひとりひとりの「彼にしては…」は一旦いらないのです。CD自身が描く構想にどれだけ近いか、のみで判断するべきなのです。

デザイナー個人の個性ではなく、CDの個性。それは言い換えれば独断です。
部下にとってはツライ状況かもしれませんが、だからこそCDとの信頼関係がなければ成り立ちませんし、CDは正しい判断をし続けないと信頼は保てません。

ある意味での強権を振るわないといい顔つきの製品はできないものです。もしくは、ハナから一人で設計されなくてはなかなか難しいです。特に、ジョブ・ディスクリプションがなくて、衝突を好まない日本人にはなおのことです。ジョブ・ディスクリプションというのは、「この会社でのあなたの仕事は、○○に責任を持ち、○○をすることです」と業務と責任の範囲を明確にする契約書みたいなものです。

まぁ、私もよその会社の内情は想像でしかありませんが、少なくとも、弊社が取り扱うKIGOは内山さんが、BEERBELLYは若井さんと小山さんが、m.rippleは村上さんが、Tochcaは天崎さん夫妻が、Big Mouse Jimmyは後藤さんが、考えて、設計して、つくっています。
こういうブランドをまた増やしていきたいですが、なかなか……で冒頭に戻ります。

さて、Pop-upストア博多のため、出発しなくてはなりません。

いい顔つきをしたレザー製品を見たいと思ったら、是非お越しくださいませ。

 

2018年3月2日(金)~4日(日)
連日11AM‐7PM(最終日は5PMまで)
ギャラリー・エンラセにて 福岡市中央区大名1丁目2-9

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