sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

生き物の皮を革にする仕事②

「いい革、わるい革というものはない」と、村木さんは言います。
「靴や服や道具など、様々な用途に合う革、合わない革というのがあるだけです」

なるほど。厳密にはもちろん、手抜き作業で鞣された革、手間ひまを惜しまずに製造された革というのがあり、原皮となる動物にも個体差があることは否めないのですが、それも用途に合致しなくては意味がないということです。

彼が主催した革のタンナー見学会の一行は、姫路でふたつ目の会社に向かいました。

「オールマイティ」の水瀬社長は、モスグリーンのレザージャケットを着て現れました。ちょっとワルなにおいを漂わせるダンディーな男性です。
ここは、デザイナーやクリエイターの要望に応えるべく、それぞれが求める革を1枚から鞣し、染色、仕上げまで行なうという珍しいタンナーです。

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前回で述べたように、レザーというのは大量の水を必要として、大きなドラムやピットなど設備を使って作られます。そのため、一回の作業で最低でも50枚、100枚という規模で鞣しをしないと効率が悪いのです。
その50枚にしても、前述のような個体差のために、化学製品のような均一さというのは実現が難しく、バラつきがでます。そこで生じるリスク(ムダ)を背負って卸会社があり、革を1枚から販売する革屋さんがいるわけです。

つまり、通常、革製品を製造販売するアパレルや革作家が、タンナーと直接レザー素材の売買をしているわけではないのです。中には弊社スナワチが扱うKIGOのように、タンナーと逐一相談しながらパートナーとなってブルの革を鞣してもらっているブランドもあります。有名なブーツブランドであるRed Wingは、自社タンナーを持っています。

我々がこの日訪ねたオールマイティは、牛はもちろん、イノシシ、クマ、馬、ダチョウなどどんな皮でも扱うということです。そして、製作者の求めに応じて、相談から試作から完成まで一貫してお付き合いする。製品の後染めや、顔料の吹付け、グレージング(ガラス玉で革を摩擦して艶を出す加工)、バフィング(革の表面を毛羽立たせる加工)にも対応します。
だからオールマイティという社名なのです。

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姫路には「姫路白なめし」という白い革で作られた製品があります。これは県からの伝統工芸品に指定されているものです。

オールマイティでは、「姫山水(ひめさんすい)」という独自の鞣し技術で得た、白なめしを上回る白さのレザーもあります。
水瀬社長曰く、レザーの天然の色というのは、ベージュ色を想像される方がほとんどかと思いますが、革そのままの色というには真っ白なのです。それはそれは、雪のような白さであるということです。
ベージュに見えるのは、タンニンの渋の色で、つまり薬剤の色なんですね。勉強になりました。

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昭南皮革さん、オールマイティさん、お仕事中に見学させていただきありがとうございました。

私(スナワチ代表の前田)が、どうして革が好きなのか、たまに人に尋ねられた際には、
「革は半永久だからです。なんでもがすぐに出来て、すぐに届いて、すぐにダメになる現代において、動物が捧げた命から時間をかけてつくられ、人の頭と手でかたちにされ、手入れさえ誤らなければ半永久的に使えるからです」
と答えます。
模範解答としてはこうです。実際、その通りと頭の中では常に思っていますし。
しかし、心の中をより深く探ってみると、好きな理由は、理屈を超えたなにかとしか言いようがありません。本を読んだり、こうして人のお話を聞いたりすると、好きだった革がますます大好きになります。いつまでも革を触っていたいと思います。
革に限らず、いいモノを持って世界を歩けば、「それいいね」と声をかけられます。それはブランド名とか、ロゴマークではないのです。
好きなものを堂々と使って、自慢してほしいです。

「人がああ言うとかこう言うとか関係ない。自分が好きなハットをかぶれ」
広告会社を辞めてカウボーイをしていた私が、モンタナ州のある場所で教えられたことです。

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たとえ愛する人であっても、その人の心を所有することはできませんが、愛するモノはそれができる。そして、革はきっと、その愛情に応えてくれます。

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