sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

「なんだか特異な店」

スナワチの店舗が、大阪は本町にできました。

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オンラインストアとして2015年に発足したスナワチですが、レザーという製品の特性から、実際に見て、触って、嗅いでいただくという必要性は常に感じておりました。
そのため、POP-UPストアとして、これまで東京、大阪、京都、博多で期間限定のイベントを行なってきたのですが、そこでレザー製品に触れたお客さんたちの表情を見て、これはがんばって店をつくるしかないな、と意を決したわけです。

その計画をBig Mouse Jimmy後藤さんにお話ししたところ、「一緒にやりたい」と言うので、彼を大分県由布市から大阪に呼び寄せて、店舗内にアトリエを併設することにしました。

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「こんな店にしよう」という構想は明確にあったのですが、これにはモデルがあります。
アメリカはポートランドの郊外に「ラングリッツ・レザース」という、モーターサイクリストには世界的に有名な革ジャンブランドの本店兼工房があります。手作業のため、日産6着しかできないという頑固なイメージを持つ、厳めしい革ジャン屋です。
私は友人たちと5年前にアメリカを旅行した際に、この店に行ったことがあります。
ほぼ住宅街にあるようなロケーションで、ショウウィンドウがあるわけでもない店構えは一見、雑貨店かなにかと見間違えそうです。

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私は友人たちと中に入るのを一瞬躊躇したほどです。だって、店の中に、ヒゲ面のバイカーとか、革ジャンを着たでっかいアメリカ人のおっさんたちがたむろしていて、ジロッと睨まれたりしたら、めちゃくちゃいづらいじゃないですか。

勇気を出して足を踏み入れると、ショーン・ペンのような容貌の、髪の毛をオールバックに撫でつけた男性が迎えてくれました。腕はタトゥーで覆われています。

「コーヒーかコーラ、いるかい?」
いきなり訊かれて私は面食らいました。やっとのことで、「え、えーと、コーヒー」と答えると、彼はマグカップに入れたコーヒーを出してきました。もうひとり、年配の男性店員がそこにはいました。もしかしたらオウナーかもしれません。
「そっちが新品で、ここらへんが中古。あっちは女性モノ。ゆっくり見てってくれ」

店内には革ジャンがひしめくように展示されています。私たちはあーでもないこーでもない、いえ、あれもいい、これもカッコいい……と、興奮しながら試着しました。
結局、私はレザーヴェストを、友人の大谷さん(仮名)は革ジャンを購入しました。会計の時に大谷さんが言いました。
「『僕は18才の頃から、ラングリッツに憧れていました。今日、ここに来られてとてもうれしいです』と、前田さん(私)、英語で伝えてください!」

オッケー。私がその通りに伝えますと、ショーン・ペンと、もうひとりの男性は、笑顔を見せ、「そうかそうか」と、店の奥からひと掴みのラングリッツ・ステッカーの束を出して、私たちにくれました。それから、アメリカンサイズのレザー・メンテ用クリームも。
クリームなんて少量ずつしか使いませんから、それは今でも我が家にたっぷり残っています。

とても素敵な経験でした。私たちにとっては、海外旅行という非日常であったことも事実ですが、彼らのあの、お客との距離感や、ごく自然に「コーヒーかコーラいるかい?」と尋ねる気さくな態度。カッコよかった……。

「オレも自分の店を持つならあんなふうにやりたい」と、現実に店を持つなんて夢にも思わない、当時ただの電通社員だった私は思いました。

「今から5年前の自分を思い出してみてください。今のあなたは、当時思い描いていた場所にいますか? ちがうでしょう? ということはつまり、5年あれば、人生はいかようにも動くということなんです」

私のアメリカでの大学時代に、教授が学生たちを激励して言った言葉です。5年あれば、人生は想像もつかないようなことになっている。この先のメッセージは人によってさまざまに解釈も可能です。
だから、流れに身を任せて、努力なんかしなくてもいい。
だから、少しずつたどり着きたい場所へ近づこう。
だから、先の心配なんかしないで、好きなことを追求してみよう。

私は、今日、昼間に店を訪ねてくださった新しい友人にコーヒーを淹れました。
彼は「楽しい時間をありがとうございました。今、すごく嬉しい……」
と、ツイッターに喜びの声を書き込んでくれました。

いえいえ、私と後藤さんの方こそ、すごくすごく、嬉しいですよ。

スナワチ大阪ストアは、日本の小さなレザーブランドを扱うお店で、特別なレザー製品しか置きません。有名ブランドはありませんので、特別な人にしかこの良さはわからないでしょう。
取り扱いブランドのひとつであるBMJ後藤さんは、ここでさまざまなオーダーや要望にもお応えします。
ラングリッツのような名店になれるかどうかはわかりませんが、レザーファンにとって特別な場所、他には見かけないなんだか特異な店、にはなりたいと思っています。

スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1丁目2-2
(大阪メトロ「本町駅」出口21よりすぐ)

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