sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

「私を助けた犬のこと」

レザーストア「スナワチ」では、ジョージというヨークシャーテリアの犬が店長をしております。

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OUGI Leathersの後藤さんと、ジョージ店長と、社長の私(前田将多)の二人と一匹で、ストアを運営しているのですが、過去にはジョージが後藤さんの紹介コラムを書いてくれました。

sunawachi-leather.hatenablog.com

 

 最近は、ストアで、SNSで、ジョージ店長をかわいがってくれるお客さんも多いので、今回はジョージについて私が書きます。
ジョージのことはジョージが死んだときにでも書こうかなと思っていたのですが、もし死んだら私は泣いてしまってそれどころではなくなるでしょうし、それは10年も先のことになるはずなので、いっそいま書きましょう。

「何才なんですか?」「保護犬なんですって?」と訊かれることも多いです。
はい、ジョージはもともとは保護犬で、そのため正確な年齢はわかりませんが、推定8才です。

2015年の夏、私はカナダの牧場でカウボーイをしておりました。
…って、私を知らない人にはいきなりウソくさい作り話に聞こえるでしょうけど、本当です。
6月に電通を辞めて、7月からひと夏、カウボーイをしていました。

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カナダの短い夏が終わりかけた頃、日本にいるうちの主人(妻)から
「妹がケガした猫を拾ってしまったのだけど、彼女はアレルギーで飼えないから、うちで飼ってもいい?」
と連絡がありました。
見捨てるわけにもいきませんし、それがあまりにもかわいい猫だったので、僕は「いいよ」と即答しました。

牧場では千数百頭の牛と、三百匹くらいの羊と、犬や猫、鶏たちと暮らしていましたので、うちで猫1匹くらい面倒見るのは屁でもない、と大きな気持ちになっていました。

それで、「猫を飼うなら、犬も飼おう」ということになり、帰国してすぐに大阪の鶴橋というところにある保護犬カフェを訪ねました。

主人はウェブサイトで「この子か、この子」と二匹、目をつけていたみたいです。カフェに入ってすぐに、一匹目のヨークシャーテリア「チャビ」くんをケージから出してもらい、私が抱っこしました。

すると、チャビは私の胸にぴったり体を預けてくっついてきました。

「もうこいつに決定! もうダメもうダメ…」

私は即座に決めました。

もうダメ、というのは「もう一匹を抱っこしてしまったら、二匹のうちどちらかを断らなくてはいけないから、それはダメ。この子に決めます」という意味です。

保護犬って、人間を警戒したり、吠えたり、もっと用心深いものかと思っていましたが、チャビはピタ~っとくっついてきて、その瞬間に私の心はアイスクリームのように溶けました。

それがのちの「ジョージ」です。

ちなみに、猫の方は、悪魔みたいなやつだったと、のちに判明します…。

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the Devil

ジョージは、高齢のブリーダーが倒れて、世話をされないまま放置されていたところを保護された犬だそうです。
とうぜん不潔で、飢えた状態で、左前肢が骨折していたそうです。カフェが提携する獣医によって治療され、今でもその肢には金属プレートが入ったままです(レントゲン撮ると写っています)。

そのときに「3才くらいでは」と聞かされたので、いま5年たって、おそらく8才です。

 

チャビは、我が家でジョージと名づけられ、新たな生活をはじめたのですが、初日はトイレシートの上にじっとしていて、動こうとしませんでした。
カフェのケージの中はトイレシートが敷いてありましたから、「自分はシートの上にいるもの」と思い込んでいたのかもしれません。

あまりにみすぼらしくてくさいのでシャンプーをしたり、早々に獣医に連れていって予防接種を受けさせたりしました。

獣医に診せたら、「あれ? チャビ?」と言われ驚きました。奈良のうちから鶴橋はだいぶ離れているのですが、偶然にもそこは提携先のひとつだったようで、元チャビ、現ジョージを治療して去勢した病院が近所だったのです。

ジョージを散歩させようと屋外に出しても、はじめはぜんぜん歩きませんでした。

そのうち庭をチョコチョコ歩くようになって、やがて家の周囲を走るようになりました。
私と追いかけっこするように、飽きずに何周も何周も走っていました。
脚が悪くて走れないと思っていたびっこのジョージがうれしそうに走ったときのことは、よく覚えています。必死に写真を撮りましたから…。

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駐めてあった自動車のバンパーにゴチン! と頭をぶつけてキュー! と啼いてからは、家の周りは走らなくなりました。

私について外を歩くようになって、徐々に距離を伸ばしていき、近所を一周できるようになりました。

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秋が冬になり、私は家の二階の書斎で『カウボーイ・サマー』の原稿を執筆していました。

ジョージを一階に置いたままにすると「キュー、キュー」と啼いて集中できないので、書斎の足元に動物用ベッドを用意してそこにいさせました。ジョージは自分で階段をのぼることができません。

ストーブをつけて机に向かって書いて、疲れるとジョージと散歩して、一緒に昼寝して、夜にまた書くという生活でした。

無職ってすごいんですよ。一日なにをしてもいいし、なにもしなくてもいいんですよ。
でも、常に不安ですから、孤独とのたたかいが苛烈です。

行く会社もない、仲間もいない、給料もない、自分が人生を転落したような気持ちばかり募る。すべてが無駄に思えて、毎日なにをがんばっているのかわからなくなります。

オンラインでスナワチも開始しましたが、誰とも会わないから、とにかく毎日孤独。
いつ来るかわからない注文を待ち、出せるかどうかわからない本を書く。

あの冬の日々に、犬のジョージと猫の寅次郎がいなかったらと想像するだけで、気が狂いそうです。邪魔する寅次郎に怒ったり、私が外出するとピーピー啼くジョージにイライラしたり、育児ノイローゼみたいな気分も味わいましたが、いまになって振り返ると、本当にあいつらがいてくれてよかったです。

私が保護犬のジョージを助けたのではなく、ジョージに出会った私が助けられたのです。飼い主と飼い犬以上の関係なのです、私たちは。

 

『カウボーイ・サマー』は17年に書籍になり、カウボーイの本などそんなに売れるわけではありませんが、おかげさまで高い評価を得ております。

スナワチは、よくつづいてるなと自分でも思うほど、さまざまな方に助けられて、業績もなんとかジグザグに上がっていっている感じです。

スカイロケットすることも、万事がうまくいくということもありませんが、漸進することが大事だと信じてやっています。

18年にスナワチ大阪ストアを持って、ストアが書斎にもなり、こうしてなにやら書くこともありまして、特にジョージを連れて来られる日は至福です(さらにお客さんが多い日はなおよいですけど)。
あのころのように、朝起きて夜寝るまで一緒にいられるというのは幸せなことです。

おかげでジョージはちょっと分離不安症気味で、お腹もすぐにこわしますが、それ以外は、誰にも吠えることも噛むこともなく、弱っちい犬が一生懸命に店長をしてくれています。

 

 

 

 

今後とも、スナワチを、ジョージ店長を、ご愛顧願います。 

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「愛せるモノを、持たないか?」
スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1-2-2
06-6616-9626
sunawachi.com