sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

「この時代にモノを売る人間が、モノについて語る②」

前回の続編として、革靴ブランド「Grant Stone」を販売する船中俊宏さんと、スナワチ前田将多の対談の模様をまとめます。

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このイベントでは、二人の「自慢の持ち物」も紹介しましたので、その一部を公開します。

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Rolex Submariner

船中:これは、30才の誕生日のときに買いました。20代は半分学生で、半分社会人だったんですけど(駐:船中氏は院卒かつ4月生まれのため、社会人になってすぐ26歳になる)、自分としては「いい加減に過ごしてきた時間だったなぁ」と反省したんですね。
30代は自分の人生の中で貴重な10年間になるような気がして、なにか思い切ったモノを買おうと、時間を大事にするんだという決意を込めて、このロレックスのサブマリーナーを買いました。

結果、僕は時計好きでもなんでもないので、これをずっと愛用していまして、これ以外はGショックくらいしかない。
振り返って、いま43なんですけど、30代の10年間がよかったかと訊かれると、自分としては「うーん……」というところはあります。でも、この時計を見たら、当時「時間を大事にしたいと思ってたな」という思いは常に蘇ってきます。

前田:えらい派手なやつを選びましたね、数あるロレックスの中で……。

船中:30才でこれ着けてたら「なんだこの人は」って目で見られましたね。

前田:しかもコンサルって職業で。

船中:そう、コンサルでスーツ着て、これ着けてたら嫌味でしかないですよね(笑)

でも、時計好きの人は「ええ時計してますね」って反応してくれました。
自分がおっさんになってきて、そろそろ似合ってきたかな、という頃合いですね。

 

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Rolex Submariner

前田:私もロレックス!
船中:ぶつけてきましたね(笑)

前田:これは2010年に発売された、ベゼルがセラミックになったグリーンのサブマリーナーなんです。僕にはケンタッキーにロブっていう親友がいて、その年に彼に息子が生まれたんですね。

彼はアイルランド系だから、ナショナルカラーであるグリーンを誇りにしている。
だから、僕がこの時計を10年15年使ってから、彼にあげて、彼がもう10年でも使えば、息子が大人になっているはず。

そのときに、就職なのか結婚なのかわからないけど、適当なタイミングで息子に渡す、っていうようなことができれば、この先10年20年と楽しめるかな、と思って買ったんです。

……いま2020年だから、もう10年たってるでしょ。

船中:はい。

前田:ぜんぜんあげたくないんですよ(笑)
まだまだ僕が使いたいですよ。

船中:僕もさっきの時計、一番上の子が男の子なんで、彼がハタチになったらあげたいなと思ってるんですけど……

前田:3人生まれちゃったじゃん(笑)

船中:大変ですよ(笑)

 

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COACH ショルダーバッグ

船中:「いいレザーのバッグがほしい」って、男性なら一回は思うことがあると思うんですけど、28のときに友人がサンフランシスコで挙式するという機会がありまして、ラスヴェガスまで遊びに行きました。そこのコーチの店で、これを見たんですね。
さっきのロレックス同様、ひと目惚れです。当時のレートで10万円くらい。「もう、買っちゃう!」って。

それ以来、旅行に行くときはずっとこれ使っています。新婚旅行ふくめて、過去の写真にはぜんぶこれが写っています。うしろもボロボロになってきて、色もあせてきていますが、道具として使い込んだ「価値」を感じています。

前田:立派ですね、15年も。

船中:私も、この仕事するまで革の専門家でもなんでもなかったので大した手入れもしてきていないのですが、ええモノはケアしなくてもまぁまぁもつんですね(もちろんケアした方がもちますけど)。

当時の自分としては10万円というのは大きい。「これはいかん」と、ラスヴェガスですから、その分をカジノで取り返そうとしたんですね。
この先はみなさんわかると思うんですけど、はい、おんなじ額を負けました。ですから、結果、20万したバッグなんです(笑)

 

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Grant Stone Longwing Dune Chromexel

船中:Grant Stoneの1足目でした、ロングウィングDuneのクロムエクセル。

www.getgoing.co.jp

今でも、はじめてこれを履いたときの感覚というのは頭に残っています。
Grant Stoneというブランドを(日本で)自分でやりたい、ということではなくて、最初はただ「かっこいいからほしい」と思っただけなんですね。
日本で販売店がなかったから、アメリカ本国とやりとりをして「送ってくれ」ということで受け取った靴を履いたときは「なんじゃこの靴は!」と感動しました。

僕も靴は30足くらいは持ってるのですが、こんな靴、履いたことないな、というフィット感がありました。

前田:ほおぉ。

船中:ちょうどそのとき、なんか起業できないだろうかという気持ちがあったこともあり、届いて、履いて、次の瞬間にGrant Stone(のワイアット・ギルモア氏)に「これ、日本で売らせてくれへんか」と、メール送ったんです。
はじめは向こうは「なに言うてんねん」みたいな反応でしたけど……

前田:アメリカ人ですもんね、向こうは。

船中:はい、とにかく「売らせてくれ!」って、10月に靴買って、翌年1月に中国の厦門(アモイ)の工場に行って、2月に会社を立ち上げて、5月には販売を開始してました。

前田:ふ~ん(……オレ以上のアホやな)。

ギルモア家は元々オールデンに勤めてたんですよね?

船中:お父ちゃんとおじいちゃんがオールデンのセールスマン。

前田:(お客さんに)オールデンてわかります? アメリカを代表する老舗革靴ブランドです。

船中:セールスマンと聞いてたんですけど、実際は木型を開発したり、中国の工場にアドバイザーとして行ったり、「ホントにセールスマンなんかな?」という感じはします。

前田:あぁ、昔はひとりがいろんなことやったんでしょうね。今みたいに細分化されてなくて。

中国で作ってる、というと舐められる気はしますけど、船中さんのFacebookで見た写真では、厦門って都会ですね。

船中:超都会です。一時イギリスの租界になっていて、西洋風の街並みが残っていますね。

さっきのワイアットは中国に7年くらいいて、私は生まれてはじめて中国語を話す白人を見て驚愕しました。

 

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船中:うちの靴(Grant Stone)、中国製なんですよ。やっぱり「え、中国製なん? 日本製ちゃうの?」って言われるんですけど、Made in どこ、というのは品質を保証するものではないはずなんですよ。

前田:はい。それはカバン業界でも思います。

船中:「Made in Japanだから品質がいい」と謳ってる会社には、まずそれを疑ってみた方がいいです!

前田:はい、はい(大きくうなずく)。

船中:Made in Japanだからいい、というのは、これまでがんばってきた人たちの成果であって、それを引き継いでがんばればいいものができるのでしょうけど、無条件に品質を保証するものではありません。もちろん、それは中国も一緒です。

Made in Chinaってだけで「安っぽいよなぁ」とか言われると、「いわしたろか、こいつ」と思いますね(笑)

前田:そう、僕も前に船中さんとGrant Stoneというブランドをプロモートする際にはMade in Chinaは克服すべきハードルになるよねって、話したことがありましたけど、考えてみれば、あの国、14億人いるわけでしょ。
日本人てめちゃめちゃ多いのに、その10倍じゃきかない人たちがいるわけだから、そりゃ工場のクオリティもピンキリなわけですよね。

厦門の工場はピンに近い?

船中:トップです。
Made in Japanて、品質のレンジ(幅)が(首から胸くらいに手を広げて)これくらいなんですよ。Made in Chinaは、(頭からお腹くらいを指して)こんななんです。

そのピラミッド型の裾野が広いから品質が悪いと思われるけど、「トップを見てください。日本、抜かれてますよ!」というのは、コンサルの仕事でもよく言うんです。

レンジもでかければ、ヴォリュームもでかい。

前田: そうですか。

船中:ですから、「Made in なんちゃらにこだわるのはやめた方がいいですよー」って言うんです。

前田:それはね、僕の仕事仲間の革製品作ってる人たちも言いますね。
Made in Japanが飽和していて、大手なんかがウソをついてるし。

船中:そう! ウソついてる。

前田:最後の工程だけ日本でやって「はい、メイド・イン・ジャパンでございます」って。ほんまに、インチキまかり通りますよ。

船中:えぇ……、コレ言っていいのかわかりませんが……

前田:いいんじゃないですか!(笑)

船中:日本製といってる靴でも、靴底だけ貼らずに輸入してきて、国内で靴底貼って「メイド・イン・ジャパン」て言ってる会社もフツーにあると聞きます。

前田:はぁ。

船中:これは、イタリアとかでもおんなじなんです。中国で作って、最後にタグだけ付けて「イタリア製」。ということは、はじめからMade in Chinaって言ってる方が誠実なんちゃうか、と。騙してない。

前田:確かにね……。Grant Stoneは「メイド・イン・厦門」って書いてますよね。あれがまたいいですね。

船中:はい、Made in Xiamen(シァメン)ね。チャイナが嫌だというネガティブな理由ではなくて、厦門の誇りを持って、モノづくりをしているということです。

前田:いいと思います。「Made in Kyoto(京都)」って書いてあると、なんかイラっときますけどね。

船中:わははは!

前田:あれはなんなんでしょうね(笑)

会場爆笑

 

(了)

 

「愛せるモノを、持たないか?」
スナワチ大阪ストア
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「この時代にモノを売る人間が、モノについて語る①」

去る2020年1月某日に、革靴ブランド「Grant Stone」を取り扱うゲットゴーイング社の船中俊宏氏と、スナワチ前田将多が対談イベントをしましたので、その一部をここでご紹介いたします。

この会は、ゲットゴーイング主催の「タシナム+タノシム」と題された試着販売イベントだったのですが、我々は表題のようなテーマで1時間お話ししたのでした。

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船中俊宏(ふななか としひろ) 合同会社ゲットゴーイング 代表

1976年生まれ
京都大学大学院を修了後、株式会社ディスコに入社。
機械系エンジニアとしてキャリアをスタート。
以降、複数の製造業を経て、2012年よりコンサルタントに従事。

2016年に退社、合同会社ゲットゴーイングを設立
Twitter: @get_going_inc

 

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前田将多(まえだ しょうた) 株式会社スナワチ代表/コラムニスト

1975年生まれ
ウェスタン・ケンタッキー大学卒業、法政大学大学院中退
2001年、株式会社電通に入社
関西支社で主にコピーライターとして勤務し、2015年に退職
カナダの牧場で、ひと夏カウボーイとして働いた

2018年、大阪にレザー専門店「スナワチ大阪ストア」を開設
Twitter: @monthly_shota

  ■「モノの価値とは」

船中:「モノの価値ってなんなんだろう」と、改めて考えてみたんですね。
たとえば、私は靴を販売しているんですけど、モノとしての価値というのがもちろんあります。だいたい5、6万円くらいです。
それは、単純に靴の「物」としての価値。

私の会社のスローガンというのは「出かける準備は出来ているか」で、靴とは関係ない言葉なんですね。
前田さんのスナワチも「愛せるモノを、持たないか?」でしたね。

それって実は、モノを買って所有した「あと」の話なんですね。

靴というのは「道具」だと思っています。
靴屋言ってはいけないことですけど、靴なんて、たかが靴なんです。その、たかが靴に、情熱を注いで作っている人がいて、それを感じとって売る人間がいる。それを買った方が、道具として使って、歩く先でどういう経験をしていってもらうか、そこにモノの価値が本当はあるのではないか。

前田:そうですね。僕ら含めて、モノを売る側の人間というのは、「この商品はこういう素材でこういうふうに作られていて、こういう価値があります」という話を、せざるを得ないんだけど、本当は、買った人がそれをどう使うか、それとどう生きるかが価値、であると。

船中:コスト・パフォーマンスという言葉が僕は大嫌いなんですね。それはモノを買うまでの話なんです。買って、飽きずに何十年と履いて、修理して履いて、道具として使っていったら、それはその人の価値なんです。

モノの価値というのは、その人がどう使いこなすかというところに、本当はあるのではないかと思います。

前田:ふむ。 

船中:これは「自分が余裕をもって使える金額」にもかかわる話で、それが10万円の人は、10万円の靴買ってガンガン履けるじゃないですか。僕なんか、10万円の靴を手にしても、大事に履こうとする。その結果、道具として使いこなせないんですよね。それは本来のモノの価値とズレてるなぁ、と過去の経験上、思うなぁ。

だから、自分がそれをガンガン使えるくらいの金額であったり、「よし、十年後にはちゃんとしたのを買うぞ」っていうモチベーションになったり、そういうところにもモノの価値ってあるんじゃないかな、と思います。

 

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■「モノと記憶」 ヒト・コト・トキをつなげる

船中:たとえば、腕時計を見て「これを買ったころ、こう思ってたな」と思い出すし、靴を履いて「これでどこに行ったな」とか、「このカバン持ってどこへ行ったなぁ」と思い出す。

今回のイベントのタイトルに「タシナム」という言葉がありますが、身だしなみというのもタシナムのひとつですね。

「今日は誰誰と会うから、こういう格好で行こう」と考えながら、道具として身にまとう、その積み重ねというのが、記憶として残ってくる。

ネクタイひとつとっても「今日は勝負プレゼンがあるから、気合の赤だ」とか、トランプ大統領もここぞというときは赤ですね。

モノと記憶を結びつけることも、さっきの「価値」にもつながってくるのだと思います。

前田:その通りですね……。僕もこの革ジャン着て、バイクであそこ行ったなぁ、ツーリングであそこ行ったなぁ、って思い出しますもんね。それによって、僕にとってこの革ジャンの価値がますます上がりますから。

船中:「おしゃれ」について言うと、靴なんて全身の面積からいえば5%くらいでしょうか。靴履いて「おしゃれ」になんかなるわけないんですよ。

でも、僕はおしゃれについて質問されたら「まずはいい靴を買いなさい」って言うんですけど。

前田:あ、僕は「いいカバンを持ちなさい」って言います(笑)

船中:そこはエゴが出ちゃう(笑)

でも、いい靴を履くとなにがいいかって「姿勢がよくなる」んですね。

スニーカーがだめってわけじゃないですけど、スニーカーは靴が人に合わせてくれるんです。どんだけ雑に履いても歩けちゃう。
でも、女性でいえばパンプスとかヒール、男性なら革靴ってのは、人が靴に合わせるんですよ。だから、きちんとフィッティングして、きちんと靴ヒモを結んで履いたら、靴はなんと、姿勢をよくしてくれるんです。

どんだけ高価なスーツを着ても、猫背だったら一発でかっこ悪くなるんですよ。
だから、靴はファーストチョイス。

革靴ってのは痛いとか疲れるとか思われていて、スーツもみんな着なくなってきて、政府までスニーカー通勤を奨励しだす始末。鈴木大地スポーツ庁長官)だから「階段を上がれ」とか言いますけど、ふつうのおっちゃんに階段上がらせたら死んじゃうんで(笑)

まずは歩きましょうくらいから始めたらいいんですよ。僕は、革靴で最高3万5千歩までいきました。今でも一日平均で1万歩は超えるくらいです。

前田:すごいですね……。

船中:歩くというのは、健康にも直結してますしね。

そうそう、直接関係ないかもしれませんけど、コンサルしてるときに頭がもやもやすることがあるんですよ。コピーライターもそうかもしれません。頭がこんがらかって。
そういうとき、歩くといいです。
歩くと、無駄なものがどんどん削がれて、「よし、こうしよう」って、ポン! と答えが出てきますね。だから、しょっちゅう「散歩いってきます」って会社抜けだしてました。

前田:村上春樹も、ジョギングするのは、走りながら考えを整理してるって書いてましたわ、たしか。

船中:スティーブ・ジョブスも、ウォーキング・ミーティングとかしてましたね。

 

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■「なんでこの仕事を選んだのか」
前田:船中さん、なんでこの仕事をはじめたんですか。
ぜったい言われますやん。ブリヂストンに勤めてたとか、京大の工学部で院まで行ったのに、「なんで靴屋やってんの?」って。
船中:めっちゃ言われますね。それは、ひとつには、子供に自分が働く姿をどう見せていくかというのを意識したからなんです。「今のままじゃマズいな」という気持ちはありました。
前田:なんなんでしょうね、それは。儲かってたんじゃないんですか? コンサルの会社にいたんだから。

船中:まぁ、儲かってたかどうかは、子供には関係ないですからね(笑)
ずっと眉間にシワが寄ってるような状態で、寝てもぱっと起きて仕事をしたりとか、ざっくり言うと病んでる、ですよね。それはちょっと、子供に見せたくない、と。

振り返ると、一族が商売人の家系だったもので、高卒中卒の中で、兄貴がはじめて大卒、そして僕は院卒。めっちゃ浮いたんですね。「こいつはバカか」って(笑)

サラリーマンやってるのが異常で、商売するのがスタンダードという特殊な環境だったので、自分も「あ、商売したいな」と思いました。

あとづけのように色々言うことはできるのですが、直接的にはもっと短絡的な話で、「つらい!」「逃げたい!」「新しいことしたい!」、という、ある種、負けに負けてたどり着いた道……。

前田:それは、一番悩んでたのは何才くらいなんですか?

船中: 30代はずっと悩んでましたよ。コンサルの前の仕事してたときから、32くらいで。そして、35で悩んで、37で悩んで……。

前田:ミッドライフ・クライシスが早かったんですね。
「ミッドライフ・クライシス」というのは、30代後半から40あたりで一度、男というのは(女の人はわからないけど)人生に悩むものなんですよ。「このままこれをしていていいのか」と、はたと立ち止まるんですって。それで、仕事を変える人もいれば、人生、もしくは家族に対する態度を改めたりっていう、方向転換を迫られる時期があるらしいので、若い人は覚悟しておいてください!

僕も、電通辞めてカウボーイやったりしたのは、振り返ればミッドライフ・クライシスだったんだろうなと思います。

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船中:いま、僕の使命としてすごく思ってるのは、「一人でも多く、かっこいい大人を世に出したい」。べつに、身だしなみレベルの話でいいんで。
前田:それはホントにねぇ、つらい道、しんどい道ですよ。だってさぁ、世の中かっこ悪い男ばっかじゃん(笑)

船中:そうですよ。

前田:商売しようと思ったら、「かっこ悪い人間に、しょーもないモノを売る」というのが一番儲かるんじゃないの? かっこいい男にかっこいいモノを売ろうなんて思ったら、「お客さんどこにおんねん……」て、どこ探していいかわからない。
いばらの道ですよ。

船中:いばらの道ですね。でも、だからこそ自分がやる意義があるというか、左団扇で「なんか、Grant Stone、儲かったな……」ってなったら、それはそれで面白くないんですよね。

僕が伝えられるところはお伝えして、理解してもらって、靴を道具として履いてもらった結果、かっこいい大人に増えてもらえれば、子育てをする大人としてはうれしいな、と。
子供に「大人になりたい」と思ってもらえる社会って健全だと思うんですよ。
いまのね、ツイッター見てると「誰が大人になりたい思うねん」て、かわいそうだなぁって。

前田:そうですね、日本人がネガティブすぎるのかもしれないけど、「いや、大人になってからの方がずっとたのしいよ」って言いたいですよね。
船中:はい、たのしいです。

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 今回はここまでです。

つづきが書けそうならまた書きます…。

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「今年もいろんなモノつくりました」

今年もいろいろオーダーをいただいてつくったなぁ~。
ということで、感謝を込めて、つくった自慢です。

誤解のなきよう書いておきますと、私はクラフツマンではありませんから、手を動かしたわけではありません。

クラフツマンという仕事人は往々にして、コミュニケーションは苦手です。

私は「……であれば、これはすなわち、こういうことですね?」とハナシをカタチにする、ビジョンを物体にする役割です。ですから、スナワチです。

 

①後藤さんのショルダーバッグ

後藤さんは前回の正月休みの間、実家がある大分県に帰ることもなく、自分用のカバンをせっせとつくっていました。

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手前にあるのはオーダーで出来たてのポーチバッグ

約1年たって、いまではこんないい色になりました。米国で1881年に創業したハーマンオークレザー社の、染料の入っていないレザーです。

あ、いきなりこれはオレぜんぜん関係なかったわ……。

 

②Mさんのロングウォレット

長財布をオーダーいただいた際に、「一部でもいいから、自分でつくりたい」というご希望を受けて、何回かに分けて後藤さんが指導しつつ完成させた財布です。

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作業をするMさん

「後藤優太レザーワークショップ」を木&日の週2回開催するようになったきっかけでもあります。

 

③Jさんのシューズバッグ

社交ダンサーさんからのご依頼でつくったシューズバッグ。仕事道具である大事なシューズをこれに入れて、各地を転戦するそうです。
お届けしてから10ヶ月たって先日再会し見せていただきましたときには、きれいにお使いいただいていてうれしかったものです。

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④Iさんの”Earth”

4色のレザーを使っておもて面うら面でちがう表情をたのしめるカバン。
発案は依頼主で、かたちにしてみたらこのような美しいカバンに出来上がりましたので、なんとなく「Earth」と名付けました。 

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⑤ビジネスバッグあれこれ

お仕事用のバッグを、男性用女性用ともにいくつも製作しました。

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モデル:後藤名人

世の中の仕事の数だけ、カバンのタイプがあってもいいですよね……。

 

⑥Oさんのカバン

観劇が趣味のOさんより、お出かけ用バッグをご依頼いただき、後藤さんの得意技でもある口金バッグをつくりました。既成の口金ではなく、自由なサイズ設定を可能にするため、アルミ板を切ることから製作がはじまります。

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Oさんが過去にオーダーくださったお財布と

⑦レザーポケットT

オーダーでつくったわけではないけど、つくったことには変わりありませんし、あんまりステキなので載せます。来夏もつくろうっと。

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⑧おじさまのバッグ

以降3つは、KIGOブランドを運営する金魚製鞄 内山さんと組んで製作したものです。

「お世話になった方の還暦の祝いに」と、女性3人が費用を出し合って依頼をくださったセカンドバッグ。
おじさんがたまに使っている感じのバッグですが、これが内山さんの手にかかればこの通り。

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こんなの美女たちからもらったらデレデレになっちゃうよね……。

 

⑨社長さんのボストンバッグ

一度小さなお仕事に応えたところ、大きなお仕事をまた依頼してくださったとある社長さん。
社長って人種はオラオラ系な人も多いですが、こちらの(70代?)紳士は実に穏やかで辛抱づよく、お話ししていてうれしくなる方でした。

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ゴルフや小旅行用のボストン

⑩縦横いけるビジネスバッグ

大物の納品としては今年最後になったビジネスバッグ。
「縦にも横にも使えて、リュックとして背負えるバッグ」という高度なオーダーでした。

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2種類のグリーンの組み合わせが鮮やかで、柔らかいカーフ(生後半年以内の仔牛)でできています。

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以上です。

「私もオーダーしたのに載っていない!」という方はすみません。もちろん我々は忘れてはおりません。
が、紙幅の関係で……、ということでご容赦ください。今回はバッグ中心にいきました。
たくさんのオーダーをいただきまして、私も後藤さんも感謝に堪えません。

「ひとつ開発したら〇万ダウンロードされる」「××に投資したら〇%成長した」というのがビジネスです。1個つくって、売ったら手元から消えて、また1個つくるなんてのは、現代人のやることではないのかもしれません。

 でも、やるんだよ! 世界は、人とモノでできているんだよ。

ということで、トークイベントします。
グラントストーンという革靴を扱う船中俊宏さんと、スナワチ前田将多で、以下のテーマでお話しします。是非ご予定ください。

タノシム+タシナム この時代にモノを売る人間が、モノについて語る』
2020年1月19日(日) 3PMから1時間
本町フリースペース「rassombler ラソンブレ」
大阪市中央区北久宝寺町4丁目3-12 2F
ご参加無料

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Merry Christmas. See you there. 

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「ウェットフォーミングでつくったカバン」

スナワチてんちょうのじょーじです。

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あいかわらずショータはちこくしたり、ごはんたべたり、ゆーびんきょくいったり、あわただしくしてるのでレザーこらむはボクがかきます。

ゴトウがすごいカバンをつくりましたので、できたけいいをごしょうかいします。

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ゆうじんのカラキからとーとバッグをつくってほしいというイライをもらい、ゴトウはうけました。
うけるというのは「う~け~る~w」と大わらいしたではなくて、つつしんでおうけしたという意ミです(慌てて社長註:敬称略です。ジョージはどなたでも呼び捨てにします)。

ゴトウは、
「それならおもしろいほーほーがありますよ。……ただし、それにはカラキの協力がひつようです。ふっふっふ」
とブキミに目をひからせたそうです。ゴトウは、つねづねあたまに思いえがいていた、かわったほーほーをさいようすることにしたゴトウです。でした。

それは、ウェットふぉーみんぐというぎほーでカバンの底をつくるのです。

ここでボクちょっときゅーけーな。つかれたし。 

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……なんのハナシだっけ?

そうそう、カバンの底はレザーが角どがきつく折られて、ぬい合せてあるところにふたんがかかりやすい上、おいたときに地めんにあたってキズつきやすいんです。そこから壊れることがおおいようです。ぜんぶゴトウのうけうりなのでしらんけど。

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こういうところが破れたり剥げたりしやすいですね

だから、底がひとつのぱーつでできているカバンをつくれないか。そのためウェットなんとかでぎゅーっと革をまげてみよう、というのがもくろみです。

そのためには木ガタがいります。でもそんなものは売っていません。

カラキはうってつけのヒトなのです。

カラキはかいしゃ員ですが、えんすーじあすてぃっくなサーふぁーで、でぃーあいわいのタツジンです(社長註:enthusiastic = 熱心な、です)。 

なんとゴトウとそーだんをかさね、木ガタをよういしてくれました。

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ゴトウはまず2枚がさねのレザーを水にひたしてびちゃびちゃにし、木ガタにまきつけて固定しようとしました。
クギでうっちゃうということもありえましたが、木ガタが穴だらけになるので、ゴトウは、レザーにぱんち穴をあけてヒモでしばるほーほーでやってみました。

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これが、めちゃくちゃたいへんだったみたいでした。
じょうぶなレザーも、さすがにびちゃびちゃでは弱くて、ヒモをぎゅーすると、ぶちーってやぶれちゃうのです。
でも、ぎゅーしないとちゃんとかたちがつきませんから、できるかぎりぎゅーする、ぶちーっなるというくりかえしで、その日は午後じゅう「あぁー!」とか「うわー!」とかゴトウの苦モンのこえが聞こえてきました。

レザーの染料がしみて、ゴトウの手はまっくろでしたが、なんとかシワものばして、ぐるぐるにしばることができました。

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あとはほーちです。革のセンイの中までぬらしてますから、すぐにはかわきません。3日くらいおいておきましたっけね。

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かわいたらカットして、まるいところだけつかいます。

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ちょっとタイム。おもいだしただけでくだびれたよ、ボクは……。

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はい、できました。とちゅうははしょったけど、できたよ。
これはオーイェー! です。

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ぶらっく&ぶらっくですし、一見ハデさはありませんが、よく見たら「どーなってんのコレ」というカバンです。

カラキもとてもよろこんでくれたみたいでよかったです。

 ゴトウはもうつくりたくなさそうですが、木ガタはありますから、ごしょもうのおきゃくさんがいらしたら、ボクがてんちょうとして、ゴトウをしばきたおしてつくらせますよ。

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「愛せるモノを、持たないか?」

スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1-2-2
06-6616-9626
sunawachi.com

ナントカペイ的なサービスに、店舗から思うこと

今回はレザーの話ではありませんが、あまり語られていないし、一般の方は気にもしないであろう店舗の立場から見た電子決済サービスについてのコラムです。

 

電子決済サービスの会社が乱立して、わけがわからなくなってきています。飽和状態です。
お店をやっている人なら誰しもそうでしょうけど、あちこちの会社や代理店から電話がかかってきて、「うちのサービスを導入してほしい」と営業をかけてきます。

ちょっと前なら、決済サービスごとにカードの読取端末があって、お店によってはそれらデバイスでゴチャゴチャになったものでしょう。
最近はスマホQRコードを読み取らせるシステムが増えて、乱雑さは軽減されてきたかもしれません。

ユーザーからしたら、スマホだけ持っていればモノが買えて、キャッシュバックやほぼそのままお金として使えるポイントが貯まったりして、便利なものです。

 

しかし、私のまわりの個人経営のお店をやっている人たちは総じて消極的です。
なぜなのでしょう。

現金は現金で、用意するのは結構な手間がかかります。そして、両替して小銭を用意するのは無料ではないのです。私は先日、100円玉たったの5枚が必要になり、500円玉を持って三菱UFJ銀行に行きました。
すると、驚いたことに「500円玉を100円玉5枚に両替するには、手数料540円がかかります」と言われました。

「それ、本気で言ってるんですか?」

帰り道、私は500円玉を乗せた手をじっと見るほかありませんでした……。

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両替カードという専用のカードをつくると無料なのですが、それも「10枚まで」といいます。100円玉を10円玉10枚にしたら終わりです。毎度そんなので済むわけないじゃないですか。

だったら電子決済に移行した方がよさそうですが、たとえばクレジットカードは、店側が手数料というものをカード会社に取られます。だいたい3%前後です。
これはなにかというと「いま手持ちの現金がないお客さんが、あなたの店に支払う3万円(例)をカード会社が保証します。つまり、そのお客さんがのちに3万円払えなくても、お店にはその額をカード会社から払います」というその保証手数料です。

100円、200円の商品を売っているお店なら、「そんな小さな個々の会計を保証してくれなくていいから、現金で払ってほしい」と当然考えます。そのため「カードのご使用は○千円以上からでお願いします」というところもあります。

 

ところが、最近の電子決済サービスの中には「決済手数料0円」というものもあります。
ソフトバンクグループのPayPay(2021年9月30日までの予定)、auau PAY('21年7月31日までの予定)、LINE社のLINE Pay('21年7月31日までの予定)など。

これまた店の立場から言いますと「当然だろ」という気がします。なぜなら、彼ら電子決済サービス会社は、個人データを集めて、解析可能なビッグデータにして企業に販売するのが目的だからです。

お客さんと店の間の買い物(取引)の間に割り込んできて、手数料を店から取り、お客さんからはデータを取り、それを企業に売ってまたおカネを取るという、取る、取る、取ることばかりの仕組みです。
ユーザー獲得競争が熾烈ですから、お客さん(消費者)にはキャッシュバックなど様々な派手な施策が行われていますが、店舗に対しては契約さえ取ってしまえば、あとはメールや電話で質問しても定型文のような返信や返答があるだけです。

担当営業としてやってくるのは世間の仕組みや、商売への理解などない若い子がほとんどで、1件契約を取ってくれば○円という歩合でやっているのでしょう。ヘタな鉄砲数打ちゃ当たる方式です。

世の中の最新の動きを知るためにも、私は何社かは導入しましたが、結局店舗がQRコードだらけになって迷惑なので、見えるところに置いてないものもあります。

 

リスペクトがない。

これが私の感想です。

自分のところのサービスを押し付けるのに必死で、政府挙げてのキャッシュレス化推進の一環でもあるから官軍気分なのでしょうか。

店舗に対して
「うちのサービスを置きたかったら、登記簿謄本を提出してください。審査します」
のように、
「いや、君が私のことを知らないように、私も君の会社など知らんぞ。謄本見せんかい」
と言いたくなる事例もありました。
架空の店舗をでっち上げて「契約取れました!」と報告する悪質な代理店(のスタッフ)も中にはあるという事情はわかりますが、お互いの関係というものをまったくわかっていない様子です。

 

今はビッグデータを獲得したものが世界を征する時代です。
しかし、データというのは、海に網を投げたらガサー! っと獲れるものではなく、あなたがたにはまったく関係のない人が、うちのような個々のお店の商品やサービスに惚れてくださって、お金とモノを等価交換した喜ばしい関係の間から生まれているということを忘れないでもらいたいと思います。

古い人間と言われようが、頭が悪いと思われようが、そういう愛情と感謝を日々感じたくてやっているのです。

 

 

「愛せるモノを、持たないか?」

スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1-2-2
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文責:前田将多

「不屈のヒロキくんの話」

このレザーコラムは、いわば商売のために書いています。
スナワチの社長である前田将多が、スナワチのために書いているのですから、おのずとそういうことになります。
人の死を商売に利用するのは不本意なので、しばらく黙考したのですが、やはりこういう若者がいたことを書き残しておきたいと考え、ヒロキという青年について書きます。

 ヒロキは、私の東京の実家の隣家にいた青年です。私は男ばかり三人兄弟で、隣家にはうちの末弟より2つ下の女の子がいて、私たちと合わせて四人兄妹のように育ちました。
彼女は自分だけ女で、きっと「おちんちんというのは、あとから生えてくるもの」だと考えていたかと思います。母親同士が親友になり、我々はそれくらい近い関係にありました。

隣家では子供をもう一人ほしいと考えていたようですが、一度流産を経験されています。当時まだ中学生で、流産というものがなんのことかよくわからなかった私は、私の母が電話でその報を受けて大泣きする姿を見て、それが女性にとってどれくらい悲しいことなのか、多少のショックをもって知りました。

それから何年かたち、やがてお姉さんとは11才年の離れた待望の弟が産まれます。それがヒロキです。

 私とは15才くらい年がちがう上、彼が少年になる頃には私はアメリカの大学に行っていて不在でしたし、就職して関西に移ってしまいましたから、さほど親密な付き合いはありませんでした。
ヒロキからしたら、物心ついた時から私は大人で、「隣の家にいっぱいいる怖そうなおにいさんの一人」だったかもしれません。

 ある日、「ヒロキが倒れた」という連絡があり、検査の結果胃ガンが発見されたと知らされました。
ヒロキは専門学校を出て、憧れていたゲーム会社でCGアーティストとして、働いているときでした。
当時、電通関西支社に勤めていた私は、ミナミのレザー屋でよい革財布を買って、ヒロキに贈りました。
「このレザーは使ううちに色が変わって、手に馴染んで、カッコよく変化します。だから、君は元気になってこれを5年、10年と使って、ボロボロになったときに『ああ、俺は同じだけ生きたな』と思えるようになってください」とメッセージを添えました。

 

彼は手術をして、抗ガン治療に耐え、言われた通りに、財布をよく使ってくれました。
「いや、そうは言ったけど、ボロボロすぎねえか?」と思えるほど、使い込んでくれました。

ガンは、一度はなりを潜めたかに見えましたが、数年後に再発しました。
私は会社を辞めて、私自身がレザー屋になっていました。

 東京に行く折には隣家に声をかけ、ヒロキの顔を見ましたが、抗ガン剤治療というのはサイクルがあり、私が会うときはいつも普通にひょこひょこと歩いて元気な姿を見せてくれました。
彼曰く、投薬の翌日まではほぼ通常通りに生活できるのですが、その翌日がつらく、「廃人みたいになります。ただ寝てるだけで、話しかけられても返事すらできません」ということでした。
それがいかにつらいことなのかは、なった本人にしかわからないことだと思います。私には想像もできません。

ヒロキは好きなことを突き詰めたり、細部にまで神経を使ってなにかをつくったりするのが性分みたいで、コンピューターグラフィックスに携われない鬱憤をレザーにぶつけるかのように、レザークラフトに打ち込みはじめました。
スナワチにいるプロの後藤さんに心酔しているようで、会えば次々と質問をしていました。

 遠くない死期を覚悟しながら、あれほどレザークラフトにのめり込んで、友人たちのために名刺入れやコインケースをつくっていたのは、やはりなにか、残るモノを手渡したかったのではないだろうか、と私は想像します。
ヒロキの集中力は、私の目からも異常なものがあり、上達のスピードは偽りなく驚愕でした。ちょっとキモいくらいでした。

後藤さんは、ヒロキと直接メッセージを送り合い、助言を与えていたみたいですし、言葉で伝えられない部分は映像を撮って送っていました。
クリスマスには、スナワチからヒロキがずっとほしがっていた後藤さん製のカバンをプレゼントしました。彼は感激のあまりアワアワしながら、電話をかけてきてくれました。

 ガンは容赦なく進行します。骨にも転移して、彼は友人と電車に乗りながら、右手で吊り革につかまっていましたが、車両が揺れた瞬間に、腕の骨が折れてしまいました。それはのたうち回るほどの痛みだったそうで、駅から救急車で搬送されました。

それでもヒロキは、「左腕と口かある」と言って、レザークラフトをつづけました。

 その頃にはあらゆる抗ガン剤に効き目があらわれないことがわかり、医者はホスピスでの緩和ケアを勧めたそうです。しかし、ヒロキは諦めずに、抗ガン剤治療の道を選びました。

 体調の比較的よいときに、お姉さんに連れてきてもらい、大阪のスナワチも訪ねてきてくれました。ここでも後藤さんとなにやら話し込んでいましたので、そういう際は、私はふたりをそっとしておいて、心ゆくまでレザー談義してもらいました。

 ヒロキと最後に会ったのは、6月の後藤優太オーダー相談会のため、原宿に行ったときです。だいぶやせて顔色も悪かったように記憶しますが、会場まで姉の運転で来てくれたのです。

 ボロボロのスニーカーを履いていたので、一緒に買いに行きました。

そして、夜はまた後藤さんとレザークラフトの話をしていました。いつ終わるねん、というくらいしていました。

ヒロキが帰ったあと、後藤さんと二人で、夜空を見上げながらタバコを吸ってこんな話をしました。

「新しいスニーカーもさ、いつまで履けるかわからないけど、履いたらええやんな」

「はい、僕もレザーについて教えていますけど、ずっとこれからもうまくなればいいな、と思って教えていますよ」

 

ヒロキ本人を含めご家族は、前年の夏に「余命はあと1年くらいではないか」と医者から言われていたそうですが、次の夏がやって来ようとしていました。
私は「ヒロキが死んでから会いに行っても仕方ない。生きているうちに見舞いに行こうか」と思って、私の母親に相談したところ、「もう会いに来ても、話せる状態ではないから」と止められました。

先週、母から「ヒロキは意識もほとんどなく、体重も45キロを割っているくらい(ヒロキは身長180cm)にやせ細っています。入院や治療はせず、自宅で見送るつもりだそうです」と連絡があり、私は返す言葉も見当たらず「わかりました。ありがとう」とだけ返信しました。

その翌朝に、ヒロキはガンとの長いたたかいを終え、永眠しました。享年28。

私はヒロキが闘病中とはいえ、飄々としていた姿しか知りませんので、葬儀に参列する前の現時点では、まだ実感が湧かない状態です。
ただ、こういう、生きる意欲も、能力も才能もある若者が、苦しみながら命を一枚一枚剥がされるように手放さざるをえない、運命の不条理に打ちひしがれる思いです。

「隣の家の怖そうなおにいさん」であった私が、レザーを通じて、少しの間でも彼のような不屈の魂を持つ若者と交流ができて、ひたむきに生きようとする人間の崇高さに触れることができて、感謝とともに見送りたいと思います。

私たちの製品を大切に使ってくれてありがとう。
Rest in peace.

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中央がヒロキくん

 

「愛せるモノを、持たないか?」

スナワチ大阪ストア
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「オーダーは、するのも請けるのもむずかしい」

1周年を迎えたスナワチ大阪ストアでは、ここのところなぜかワンオフのオーダーが続いております。ワンオフというのは「一点モノ」のことです。

一点モノというのは、「いつかこんなモノを、誰かに依頼してみたいけど、どこに頼んでいいのかわからない」というのがふつうではないでしょうか。

スナワチに常駐する後藤さんは、この1年、実にさまざまなオーダーにお応えしてきました。

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カバンや財布はもちろん、たとえば、ベルト、ウェストポーチ、盆栽アーティストの道具入れ、包丁を持ち運ぶための鞘、美容師さんのシザーケース、PCやタブレットのスリーブなどなど。

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ダンサーさんのシューズバッグ

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包丁用の鞘(さや)

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4色のトート

スナワチの取扱いブランドの中には、こういったワンオフのオーダーもお請けするところもありまして、Tochcaさんはガマ口のポーチを指定のサイズでつくってくれましたし、

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キセル入れとして使われています

KIGO内山さんは還暦お祝いだというセカンドバッグと手がけてくれました。
製作中のため、画像は完成後に……。

製品に対する一部カスタムでしたら、たいていのブランドが請けてくれます。 

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m.rippleのトートバッグにジッパーのフタを

一点モノというのは、依頼するのも、お請けするものむずかしいものです。

依頼するお客さん側からしたら、どう伝えていいのか悩むでしょうし、作り手からしたら、コミュニケーション能力が問われます。

つくるプロの目からは、依頼主の要望は、どこか相反していたり、無理な内容だったりして、昔気質の職人なら「そんなもんできねえよ! よそへ行きやがれ」とけんもほろろに断りかねません。

 では、作り手側の立場でのむずかしさを列挙してみましょう。

■レザーはなんでもあるわけではない。
それぞれ使いやすい、慣れた、好みのレザーがブランドごとにありまして、「こういう革で」という要望に応えるためには、革一枚を丸ごと仕入れなくてはなりません。

■(タンニン鞣しの場合)サンプルと同じレザーすらない。
自然に近い方法で鞣されたタンニン鞣しレザーは、動物にまったく同じ一頭がいないように、個々に差異が出やすく、同じタンナーが鞣した同じ品番のレザーであっても、色やツヤに微妙なちがいがあります。またキズやムラもあるものです。

■作者ごとに、得意な製法があって、そうでないものはお請けしづらい。
たとえば、後藤さんなら基本すべて手縫いでつくるため、布とレザーを組み合わせるのは苦手です。レザーにあらかじめ縫い穴を開けて縫うため、布ではそれができないからです。その他、作り手によって、カバン系が得意な人、小物系の人など、特性があります。

■「これとまったく同じモノをつくってくれ」はできない。
 コピー製品をつくることはできないので、まったく同じものというのはできません。同じくらいのサイズ、同じような用途のモノならできますが、既存の製品とそっくり同じなのは法的な問題はもちろん、作り手の誇りも傷つけます。

■途中でオーダーの追加や変更はできない。
製作工程において、作者は設計してから、つくる順番を頭に入れて進めます。そのため、「やっぱりここはこうしてほしい」という変更をするためには、モノをバラしたり、はじめからやり直すことになってしまいます。それにより、見積額が変わることもあります。

■既製品より安くはつくれない。
これは主に依頼主の方に大きな問題になってしまう事柄かもしれませんが、一点モノは少なくとも量産品より安くはつくれないのです。「ひとつの型をつくって、それを量産して採算ベースにのせる」というビジネスができないため、その一点で利益を生まなくては、仕事がつづけられません。
なるべく抑えられるように、既成モデルを基にしたり、過去の蓄積から無理なくできる方法を考えたりもしますが、考える時間、ゼロから取りかかる工程、要望に応える途中段階での確認、ミスした時や用途に合致させられなかった時の負担など、それはそれで通常の製作作業とは桁ちがいに気を使う仕事になることは間違いありません。

 

それでも、プロの手によって、あなただけの製品がうまく出来上がった時のよろこびはきっと価格に見合う大きなものになるはずです。まだ一年ですが、スナワチにはまだ大きな蹉跌は経験がありません。

私は、ワンオフオーダーの仕事が、広告制作に似ていることに気がつきました。
広告というのは毎回毎回一回ずつのオーダーメイドで、上記に挙げたような「これはできない」の完コピ以外のすべてを「なんとかやらなくてはいけない」なかなかムチャクチャな世界です。
前職で知らず知らずのうちに、色んな方法を学んでいたみたいです。

これからもこの独特な経験を活かして、レザーファンに「愛せるモノ」を提供していけたらという思いを新たにする次第です。

 

今月は、「BMJ後藤優太オーダー相談会」もございます。

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ワンオフはもちろん、BMJの既成モデルからのカスタムも含め、モノの大小にかかわらず、レザーでおつくりできるアイテムがあれば、ご相談にいらしてください。

日時:2019年6月15日(土)~17日(月) 11AM-7PM
場所:デザインフェスタギャラリー原宿 EAST 203
   ※WESTもあるのでご注意ください。

東京都渋谷区神宮前3-20-2

詳細はこちらもご参照ください:
「BMJ後藤優太 オーダー相談会のご案内」

See you there.
 

 

 「愛せるモノを、持たないか?」

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