sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

「栃木レザーを訪問」

昨年末に、泣く子もだまる栃木レザーを見学させてもらってきましたので、レポートします。
栃木レザーと聞いても、レザーファン以外はわからないかもしれませんが、国内タンナー(レザーを鞣す工場)としては非常に高い評判を獲得している企業です。そうです、いち企業です。
栃木レザーの名前が売れすぎてしまって、栃木というのはレザーの名産地なのだと勘違いしている人もいますが、栃木レザー株式会社という企業がそこにあるだけです。

ここで、レザーにはクロム鞣しとタンニン鞣しがあるというお話の復習をしなくてはなりませんが、市場に出回るレザーの9割方はクロムです。

塩基性硫酸クロムという薬品で防腐する方法で、短時間で均一に、そして比較的柔らかく鞣すことができると言えます。その代わり、経年変化による「育てる楽しみ」は少ないのが特徴です。わかりやすく言えば、革靴のレザーは多少柔らかくはなりますが、大きな変化はしない、ということです。

タンニン鞣しは、ミモザやチェスナットといった植物から抽出した樹脂(いわゆる渋)によって動物の皮を革にします。鞣すというのは、そのままでは腐ってしまう獣の皮膚を防腐処理することです。それから柔らかさや風合いや色彩について、さまざまな調整・加工がされるわけです。

栃木レザーが製造するレザーは、タンニン成分が溶け込んだ液体が入ったピット漕という、要するに銭湯のお風呂みたいなプールに皮を漬け込んでつくります。1760年に英国のマックス・ブリッジという人が考案した方法だそうですが、時間がかかるため、現代においては非効率的な製法です。タンニン鞣しであっても、通常は超大型のドラム型洗濯機のような、ドラムに入れて回す方が一般的です。
ところが、栃木レザーには国内最大のピット漕があり、ゆっくりとじっくりと、手間を惜しまずレザーをつくっています。

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これは皮を脱毛する漕です

細かくて長い工程はここでは省きます。栃木レザーのウェブサイトで「Process」をご覧になると映像付きで解説してくれます。

栃木レザー株式会社

 

栃木レザーの山本昌邦社長ともゆっくりお話しをさせていただいたのですが、私が持っていた先入観は覆されました。失礼を承知で書きますが、私は栃木レザーというのは、正直「マーケティングがうまい」会社だと思っていたのです。
確かにレザーは文句なしにいい。スナワチに常駐しているBig Mouse Jimmy後藤さんも、栃木レザーを使って製品をつくっています。

しかし、あまりにその名が日本の革業界の隅々に轟いたために、誰でも彼でもが使うようになって、製造クオリティに疑問があるようなブランドでも、とりあえず「栃木レザー使用」と謳うようになっているように思われたからです。

山本社長も「名前だけが独り歩きしてしまった現象は確かにある」と認める部分があるようですが、それでも、名に恥じないレザーを手抜きなしでつくり続け、また進化させていくことしかない、と私たちに語ってくれました。

もうひとつ感銘を受けたのは(山本社長のお話は感銘の連続だったのですが……)、「うちはすべてオープンにお見せする」という方針です。
私は以前にタンナー見学をさせてもらった経験を踏まえ、「写真を撮ってマズイところがあればおっしゃってください」と案内役の製造統括部長に事前に言ったのですが、答えは「ありません。どこでも撮ってもらってオッケーです」というフレンドリーなものでした。

レザー業界、特に鞣し屋さんというのは、歴史的に被差別部落とのかかわりがあり、「なんか怖い」と思われているのが一般にあるかと思います。
江戸時代に、村の農耕馬や家畜の牛が死ぬと、村人は部落に持っていって賤民にその処理をさせました。しかも、それは穢れのある行為とされ忌避されたため、作業は夜に限られたといいます(『皮革の歴史と民俗』解放出版社 2009年)。

山本社長は「だからこそ、ぜんぶオープンにして、見せるんです」と胸を張ります。

どの工程でもスタッフの方が黙々と手を動かし、我々が通りかかればにこやかに挨拶をしてくださり、工場内は凛とした雰囲気が漂っていました。

 

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山本社長は商社マンとして原皮(動物の皮を剥いで、塩漬けにして売買される)を扱う仕事をしたことから、レザー業界にかかわりを持ちました。栃木レザーの経営が一時期傾いた時に、先代から乞われて一念発起して栃木に居を移し、社を継ぎ、立て直しに取り組んだそうです。

「僕が仕事しはじめた70年代には、100人いたら7、80人は革のカバンを使ってたと思う。それが今は、2人か3人よ。だけど、そういう人たちに向けて、本当にいい革をつくらなくてはいけない!」

身が引き締まる思いで拝聴しました。
見上げた社長率いる、見上げた会社でした。

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スナワチもウェブサイトに謳う通り、「誰かの評価ではなく、ご自分で本物・良品を見抜く目を持つ」少数の方々のために、「日本のクラフツマンたちが誇りを持って作る皮革製品をご提供いたします」。

2019年になりました。今年もよろしくお願い申し上げます。

 

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