sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

「この時代にモノを売る人間が、モノについて語る②」

前回の続編として、革靴ブランド「Grant Stone」を販売する船中俊宏さんと、スナワチ前田将多の対談の模様をまとめます。

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このイベントでは、二人の「自慢の持ち物」も紹介しましたので、その一部を公開します。

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Rolex Submariner

船中:これは、30才の誕生日のときに買いました。20代は半分学生で、半分社会人だったんですけど(駐:船中氏は院卒かつ4月生まれのため、社会人になってすぐ26歳になる)、自分としては「いい加減に過ごしてきた時間だったなぁ」と反省したんですね。
30代は自分の人生の中で貴重な10年間になるような気がして、なにか思い切ったモノを買おうと、時間を大事にするんだという決意を込めて、このロレックスのサブマリーナーを買いました。

結果、僕は時計好きでもなんでもないので、これをずっと愛用していまして、これ以外はGショックくらいしかない。
振り返って、いま43なんですけど、30代の10年間がよかったかと訊かれると、自分としては「うーん……」というところはあります。でも、この時計を見たら、当時「時間を大事にしたいと思ってたな」という思いは常に蘇ってきます。

前田:えらい派手なやつを選びましたね、数あるロレックスの中で……。

船中:30才でこれ着けてたら「なんだこの人は」って目で見られましたね。

前田:しかもコンサルって職業で。

船中:そう、コンサルでスーツ着て、これ着けてたら嫌味でしかないですよね(笑)

でも、時計好きの人は「ええ時計してますね」って反応してくれました。
自分がおっさんになってきて、そろそろ似合ってきたかな、という頃合いですね。

 

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Rolex Submariner

前田:私もロレックス!
船中:ぶつけてきましたね(笑)

前田:これは2010年に発売された、ベゼルがセラミックになったグリーンのサブマリーナーなんです。僕にはケンタッキーにロブっていう親友がいて、その年に彼に息子が生まれたんですね。

彼はアイルランド系だから、ナショナルカラーであるグリーンを誇りにしている。
だから、僕がこの時計を10年15年使ってから、彼にあげて、彼がもう10年でも使えば、息子が大人になっているはず。

そのときに、就職なのか結婚なのかわからないけど、適当なタイミングで息子に渡す、っていうようなことができれば、この先10年20年と楽しめるかな、と思って買ったんです。

……いま2020年だから、もう10年たってるでしょ。

船中:はい。

前田:ぜんぜんあげたくないんですよ(笑)
まだまだ僕が使いたいですよ。

船中:僕もさっきの時計、一番上の子が男の子なんで、彼がハタチになったらあげたいなと思ってるんですけど……

前田:3人生まれちゃったじゃん(笑)

船中:大変ですよ(笑)

 

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COACH ショルダーバッグ

船中:「いいレザーのバッグがほしい」って、男性なら一回は思うことがあると思うんですけど、28のときに友人がサンフランシスコで挙式するという機会がありまして、ラスヴェガスまで遊びに行きました。そこのコーチの店で、これを見たんですね。
さっきのロレックス同様、ひと目惚れです。当時のレートで10万円くらい。「もう、買っちゃう!」って。

それ以来、旅行に行くときはずっとこれ使っています。新婚旅行ふくめて、過去の写真にはぜんぶこれが写っています。うしろもボロボロになってきて、色もあせてきていますが、道具として使い込んだ「価値」を感じています。

前田:立派ですね、15年も。

船中:私も、この仕事するまで革の専門家でもなんでもなかったので大した手入れもしてきていないのですが、ええモノはケアしなくてもまぁまぁもつんですね(もちろんケアした方がもちますけど)。

当時の自分としては10万円というのは大きい。「これはいかん」と、ラスヴェガスですから、その分をカジノで取り返そうとしたんですね。
この先はみなさんわかると思うんですけど、はい、おんなじ額を負けました。ですから、結果、20万したバッグなんです(笑)

 

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Grant Stone Longwing Dune Chromexel

船中:Grant Stoneの1足目でした、ロングウィングDuneのクロムエクセル。

www.getgoing.co.jp

今でも、はじめてこれを履いたときの感覚というのは頭に残っています。
Grant Stoneというブランドを(日本で)自分でやりたい、ということではなくて、最初はただ「かっこいいからほしい」と思っただけなんですね。
日本で販売店がなかったから、アメリカ本国とやりとりをして「送ってくれ」ということで受け取った靴を履いたときは「なんじゃこの靴は!」と感動しました。

僕も靴は30足くらいは持ってるのですが、こんな靴、履いたことないな、というフィット感がありました。

前田:ほおぉ。

船中:ちょうどそのとき、なんか起業できないだろうかという気持ちがあったこともあり、届いて、履いて、次の瞬間にGrant Stone(のワイアット・ギルモア氏)に「これ、日本で売らせてくれへんか」と、メール送ったんです。
はじめは向こうは「なに言うてんねん」みたいな反応でしたけど……

前田:アメリカ人ですもんね、向こうは。

船中:はい、とにかく「売らせてくれ!」って、10月に靴買って、翌年1月に中国の厦門(アモイ)の工場に行って、2月に会社を立ち上げて、5月には販売を開始してました。

前田:ふ~ん(……オレ以上のアホやな)。

ギルモア家は元々オールデンに勤めてたんですよね?

船中:お父ちゃんとおじいちゃんがオールデンのセールスマン。

前田:(お客さんに)オールデンてわかります? アメリカを代表する老舗革靴ブランドです。

船中:セールスマンと聞いてたんですけど、実際は木型を開発したり、中国の工場にアドバイザーとして行ったり、「ホントにセールスマンなんかな?」という感じはします。

前田:あぁ、昔はひとりがいろんなことやったんでしょうね。今みたいに細分化されてなくて。

中国で作ってる、というと舐められる気はしますけど、船中さんのFacebookで見た写真では、厦門って都会ですね。

船中:超都会です。一時イギリスの租界になっていて、西洋風の街並みが残っていますね。

さっきのワイアットは中国に7年くらいいて、私は生まれてはじめて中国語を話す白人を見て驚愕しました。

 

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船中:うちの靴(Grant Stone)、中国製なんですよ。やっぱり「え、中国製なん? 日本製ちゃうの?」って言われるんですけど、Made in どこ、というのは品質を保証するものではないはずなんですよ。

前田:はい。それはカバン業界でも思います。

船中:「Made in Japanだから品質がいい」と謳ってる会社には、まずそれを疑ってみた方がいいです!

前田:はい、はい(大きくうなずく)。

船中:Made in Japanだからいい、というのは、これまでがんばってきた人たちの成果であって、それを引き継いでがんばればいいものができるのでしょうけど、無条件に品質を保証するものではありません。もちろん、それは中国も一緒です。

Made in Chinaってだけで「安っぽいよなぁ」とか言われると、「いわしたろか、こいつ」と思いますね(笑)

前田:そう、僕も前に船中さんとGrant Stoneというブランドをプロモートする際にはMade in Chinaは克服すべきハードルになるよねって、話したことがありましたけど、考えてみれば、あの国、14億人いるわけでしょ。
日本人てめちゃめちゃ多いのに、その10倍じゃきかない人たちがいるわけだから、そりゃ工場のクオリティもピンキリなわけですよね。

厦門の工場はピンに近い?

船中:トップです。
Made in Japanて、品質のレンジ(幅)が(首から胸くらいに手を広げて)これくらいなんですよ。Made in Chinaは、(頭からお腹くらいを指して)こんななんです。

そのピラミッド型の裾野が広いから品質が悪いと思われるけど、「トップを見てください。日本、抜かれてますよ!」というのは、コンサルの仕事でもよく言うんです。

レンジもでかければ、ヴォリュームもでかい。

前田: そうですか。

船中:ですから、「Made in なんちゃらにこだわるのはやめた方がいいですよー」って言うんです。

前田:それはね、僕の仕事仲間の革製品作ってる人たちも言いますね。
Made in Japanが飽和していて、大手なんかがウソをついてるし。

船中:そう! ウソついてる。

前田:最後の工程だけ日本でやって「はい、メイド・イン・ジャパンでございます」って。ほんまに、インチキまかり通りますよ。

船中:えぇ……、コレ言っていいのかわかりませんが……

前田:いいんじゃないですか!(笑)

船中:日本製といってる靴でも、靴底だけ貼らずに輸入してきて、国内で靴底貼って「メイド・イン・ジャパン」て言ってる会社もフツーにあると聞きます。

前田:はぁ。

船中:これは、イタリアとかでもおんなじなんです。中国で作って、最後にタグだけ付けて「イタリア製」。ということは、はじめからMade in Chinaって言ってる方が誠実なんちゃうか、と。騙してない。

前田:確かにね……。Grant Stoneは「メイド・イン・厦門」って書いてますよね。あれがまたいいですね。

船中:はい、Made in Xiamen(シァメン)ね。チャイナが嫌だというネガティブな理由ではなくて、厦門の誇りを持って、モノづくりをしているということです。

前田:いいと思います。「Made in Kyoto(京都)」って書いてあると、なんかイラっときますけどね。

船中:わははは!

前田:あれはなんなんでしょうね(笑)

会場爆笑

 

(了)

 

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