sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

FILSONとの思い出

前回に引き続き、私の持ち物の話です。

私は米国シアトルのブランド、FILSONのトートバッグを長年愛用しておりました。

会社員時代も、出張にも行けるし、ジムに行く日も靴やシャツが入るし重宝してました。
レザーはブライドル(馬具にも使う丈夫なもの)で、少々の雨なら弾くキャンバス地もタフでよかったのです。

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しかし、使いすぎてある時、前面のポケット下部が破けていることに気が付きました。
こういう道具が壊れる時は大抵縫い目です。
カバン本体とポケットを縫った部分の糸が、体と擦れることにより切れて、そこが裂けたようになってしまったのです。

レザーが切れることは、よほど乾燥させた上で酷使するか、犬にガシガシ噛まれるかしない限り(私はコレやられましたので…)ほとんどありません。

私は買った店に持って行きました。ところが相談すると、
「修理は受けられない」
と言います。
当時FILSONはゴールドウィン社が輸入代理店でした。本部がそう言うと店員さんは言うのです。
理由は「原状復帰が難しいから」。
つまり、「元通りのようにならないから」だと言います。

私は食い下がりました。
「いや、とにかく穴を塞いでくれれば結構ですので、ギザギザに縫ってくれても、パッチを当ててくれてもいいのです」
やはり、ダメでした。

FILSONというのは元々アメリカ西海岸の金鉱掘りとかハンターとかランバージャック(木こり)のための作業着ブランドです。
ですから、いつまでも新品同様でなくても、とにかく使えればいいのです。

私は北米への旅行を予定していましたので、シアトルのFILSON本部へ手紙を添えて、カバンを送りました。
「…というわけで、直してもらえませんか? ◯月◯日に日本から伺うので、その時に引き取りたいです」

メールで返信がありました。
「我々が検品したところ、修理よりも交換がいいように思うがどうでしょう?」
「構いません」と返信すると、後日明細書が送信されてきて、200ドルくらいだったか料金が書いてある。
「ん? 新たに買ったことになったの?」
と、私はよくわからなかったのですが、最悪それでもいいやと、旅に出ました。

その時はカナダでひとりハイキングをしに行ったのですが、最後にシアトルに寄って、FILSONを訪ねました。
「メールした日本人ですが、カバンを引き取りに来ました。」

店員さんは「ちょっと待ってて」と、奥に引っ込み、新品のカバンを手に戻って来ました。
「はい」

以上でした。請求されなかったんです。
何年も使ったカバンです。保証期間も何もありません。
アメリカの大らかさにシビレました。

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スナワチでも修理依頼を受けることはあります。
クラフツマンの想定を超えた重い荷物を日々持たれる方もたまにいらして、やはりレザーではなく縫い目が負けてしまったりするのです。
FILSONは今ではなかなかの大企業ですから、我々はホイと無料交換とはいかないのですが、各ブランドは大概の故障は無料で修理を承ります。

有料/無料にかかわらず、修理できるものを修理して、また使ってもらって、また愛してもらうというのが、レザー製品を提供する者の基本スタンスだと考えます。
原状復帰ができないものもそりゃあります。レザーは使えば形状も質感も変わりますから、新しい部分を当てがったりすれば見た目のバランスは崩れるかもしれません。
しかし、それを理由にお断りしていたら、道具が道具でなくなります。一時の流行や、一回や二回の「シーズン」で終わる製品ではないのです。

確かに、私たちは世界でも有数の細かい日本人ですから、中には細かいことを言う顧客もいるのでしょうけど、道具というものを理解されている人なら、とにかく「これを使いたい」のです。
うれしいことに、スナワチのお客さんたちは皆そんな人たちばかりです。

手にして使って、手入れして使って、修理してまた使っていただく。
これが「愛する」ことであり、それに足る「愛せるモノを、持たないか?」というのが、弊社のスローガンです。

「愛せるモノを、持たないか?」
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愛することとは、使うこと

友人から「ブーツにカビが生えたんだけど、どうすればいいのか」と訊かれました。

私の答えは単純でした。
ワークブーツなら丸洗いする。陰干しして、乾ききる前にオイルを入れる」だけです。

雑誌やウェブで色々と手入れの方法は詳しく入手できると思いますが、「ワークブーツなら」、私はそうします。
ドレスシューズなどはそうはいきませんので、ご注意下さい。

レザー製品にはそれぞれ用途があり、ワークブーツは文字通り、作業靴です。
戸外なら雨も降れば、泥に踏み入れますし、埃も浴びます。作業場なら油で汚れたり、ぶつけて傷つけたりと、様々な状況が想定されます。
私がカナダの牧場でカウボーイをしていた時は、持って行った20年モノのカウボーイブーツは牛糞塗れになりました。

そういうものです。

廉価なものではないため、箱にしまって、たまに取り出して愛でたくなるかもしれませんが、レザー製品は使わないと本来の意味であなたのモノになりません。

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写真はちょっと珍しいカーキグリーンのRed Wingエンジニアブーツです。
買った時はうれしかったのでしょう、日付をタブに書き入れました。
「2006年7月23日」とありました。確か、FIFAワールドカップドイツ大会のあとでした。もう10年以上前です。

主にモーターサイクル用に履いていますので、傷もありますが、まだあと数十年はもつでしょう。
履く前にブラシして、ごくたまにクリームで手入れするだけです。

愛するモノのひとつではありますが、現代人はレザーの手入ればかりしているほどヒマではないのです(苦笑)。
それよりも使ってやること、履いてやること、その都度状態を見てやることが大切に思います。

付き合い方は人それぞれあるかと思いますが、私にとってはレザーはタフな相棒であり、それが製造された目的の通りに目一杯働いてもらって、たまに労わることを心掛けてます。

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革を使う・着る・持つことの意味とは

レザーに触れると何故こんなに気持ちがザワつくのか。

レザーを着ると何故こんなにワクワクするのか。
ナイロンやポリエステルではこんな気持ちになりませんし、天然素材のコットンですら(少なくとも私は)ここまで延々語るべきを持つことはありません。

毛皮や皮革を身に着けることは、「死と再生」に関係があるそうです。太古・原始の文化において、普遍的な(すなわち世界中で確認されている)儀式や風習として、「獣の特別な力を得る」呪術的な行為だったというのです。

死者に着せる場合は、「より強い生命力を持っての再生・生まれ変わりを祈念する」ものとして、そして、毛皮を纏って踊ることなどは、「仮面をかぶることや刺青を入れることに共通する、異界の力を手に入れる変身にも似た手段」として、社会的意味があったのです。

レオナルド・ディカプリオが2016年に念願のアカデミー賞の受賞を果たした映画『レヴェナント』の中で、崖から落ちて死んだ馬の腹を裂いて、彼がその中に身を埋めて、一晩極寒に耐えるシーンがあります。これも、上記のような、馬が失ってしまった生命を代わりに受け取って、その生命力を自らに取り込むことによって強さを得るという意味、またはそうまでして生き抜こうという彼の決意の描写であったはずです。

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〈『レヴェナント:蘇りし者』20世紀フォックス・オフィシャルページより〉

漫才のM1グランプリで笑い飯が「鳥人(とりじん)」という傑作漫才を披露したことがありました。
あの鳥人の元ネタである仏像が奈良県興福寺にあります。迦楼羅像(かるらぞう)といってインド神話の中で、悪を喰い尽くし、人々に利益をもたらす巨鳥だそうです。
動物の頭をかぶるのも、変身の疑似行為です。獅子舞も同様です。

そういった人間を超越する能力の必要性、魔力への渇望、神話的思考が身近なものではなくなった現代の私たちにおいても、どこかで遺伝子レベルの何かによって、それを知覚することができるのではないでしょうか。
だからこそ、レザーに対してワクワクするような昂揚感が湧き立ったり、ゾクゾクするような色気を感じたり、何より、大切にしたいという気にさせられるのではないでしょうか。

ですから、レザーは特別なのです。
換言するなら、レザーを使うことで特別な気持ちにさせられるのなら、それは上に述べたようなレザーの特別な力を、あなたはすでに受け取っているということに他ならないでしょう。
オカルトではなく、人間の気持ちの動きとしてそうなら、心理的、いや、生理的な作用と言えるのでしょう。

やや理屈っぽい話になってすみません。
テキトーに掻い摘んで飲み屋での薀蓄話に使ってください…。
これをお読みになっている時点で、あなたはレザー好きなはずです。どうか名前や値段(安さ、もしくは法外な高さ)に惑わされることなく、本当に価値のあるモノを見抜いていただけることを願います。

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レザーに関する思い込みをひとつふたつ

レザーにはひとつふたつ、勘違いというか、思い込みされている事実があります。

革は、皮を取るためだけに牛や山羊などの動物を殺生しているわけではありません。
焼肉やステーキで牛肉を食べますよね。肉を得る際の副産物として、皮が残るのです。
それを皮革タンナー(鞣し屋さん)がタンニングして、皮(スキン)から革(レザー)に仕上げるのです。
私は北米で、牛を潰す現場にも立ち会い、手伝いました。

皮を剥いで肉になった牛の下にはベロッと皮が残ります。それをタンナーに売るのです。

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〈上記写真は、剥いだ皮を塩漬けにした小屋。残酷シーンは自粛……〉
その時点では大したお金になるわけではないのですが、牧場としては「捨てるよりマシ」という程度で売却します。

その昔、1850年以前の話です。北米大陸バッファローの王国でした。
インディアンたちはそれを狩り、肉や内臓は当然食べ、骨は薬に、頭蓋骨は地位ある人や戦士の冠に、尻尾はハエ叩きに、革は衣服や毛布として余すことなく利用しました。
その後、アメリカ西部に白人の入植が進むと、彼らは食べる分以上の狩りをしました。
舌を取るだけ、革を剥いで肉は腐らせるだけ、狩りの練習のためだけに、殺戮しました。
それにより、バッファローは絶滅寸前に追いやられ、生活の衣食住をバッファローに頼っていたインディアンたちは困窮したのです。

レザーを使うことに対して、動物愛護団体からは批判もあるでしょうが、人間は動物を食べて命を繋いできました。その体の部位を利用して、優れた素材としてきました。
殺生を全くせずに生きようという人は、それはそれで立派な心掛けですが、少なくとも都会生活者です。

革とはそういうものです。命を奪った動物の皮に、革という永遠の命を与えて、せめて大切に使うものだと思います。

もうひとつ。赤い財布は赤字の連想から縁起が悪いと考える方もいます。
ですが、信心深い方のために調べてみたところ、風水や占いの世界で赤い財布が良くないという事実はないようです。
むしろ、祝い事、喜びの象徴、情熱の色で、縁起の良いモノだそうです。

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新年度を迎えるにあたり、財布を新調される方は、是非スナワチを覗いてみてほしいです。
どの高級ブランドにも負けない品質の製品しか扱っておりません。信頼できる日本の小さなブランドのクラフツマンが一つひとつ手で作ったものだからです。

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レザーの鞣しには、大きく言って二通り

レザーには大きく言って、クロム鞣しとタンニン鞣しの2種類があります。
クロム鞣しのレザーが市場のおよそ8割。クロム化合物で処理された皮革のことで、品質の均一性や耐久性に優れた特徴を持つため、スポーツ用品や革靴、カバンなどに多く使われます。

一方、タンニン鞣しは植物から抽出された成分を皮革の組織と結合させることで安定させたもの。
時間とコストのかかる手法ですが、より天然の手触りや質感が得られます。「天然」ということは、動物の個体の傷やシワなどが残ることを意味し、水を吸収しやすいため染みも出来やすい側面もあります。

どちらが良い悪いということではなく、それぞれの特徴を活かした製品を使うのが賢明ということ。
「革を育てる」と表現されるような経年変化が楽しめるのはタンニン鞣しのレザーです。

こちらは、2年ほどの使用を経たm.ripple差込長財布です。

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こちらがその新品。お分かりいただけるように、元々はネイビーだった製品です。

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それがここまで色を深め、艶を増しています。
これがタンニン鞣しの醍醐味といいますか、それを所有し、使用を続ける楽しみでもあります。

春がすぐそこまで来ました。
進学やお祝いの季節に、ご自分へのご褒美に、また贈り物としてご検討いただければ光栄です。
卒業の頃には、肩書きが変わる頃には、どのような成長を見せてくれるか、それをご本人/持ち主の成長に重ねるのも一興です。

m.ripple 差込長財布:

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