sunawachi.com「レザー・コラム」

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「カウボーイに履かれたカウボーイブーツ」

このカウボーイブーツは、私スナワチ代表の前田が、18才の時にアルバイトをして買った初めての高価なモノでした。もう23年前のことになります。
世界最大のブーツブランド"JUSTIN"のスーパーローパーというタイプです。ローパーはroperで、投げ縄する人という意味ですので、乗馬用のカウボーイブーツに比べて、つま先が丸く、踵が低いです。

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当時僕は普通の高校生ですから、そのどちらもしませんでしたが、カントリーミュージックばかり聴く変なやつでした。音楽からカウボーイに興味を持って、憧れていました。今でもほぼカントリーばかりです。
僕は高校を出ると、アメリカの大学に行きました。このブーツを履いて行きました。学生寮の初日、ブーツとカウボーイハットとカバンを置いて部屋を出ていっていたら、その間にやって来たルームメイトのアメリカ人は
「ルームメイトは日本人と聞いていたけど、なんだこりゃ? 俺はカウボーイと住むのか?」
と不思議に思ったそうです。
このブーツは底がレザーソールで初めはやや滑りやすかったです。当時は知識がありませんでしたから、擦り減った時は同じようにレザーソールに張り替えてもらい履き続けました。帰国してしばらくは実家の下駄箱で眠らせている時期もあり、カビを生えさせてしまいました。その時は丸洗いしてキレイにしました。丸洗いで大丈夫でしたよ。
モーターサイクルに乗るようになって、安全のため滑りにくいビブラムソール(ゴム)に替えました。
会社員としてコピーライターの仕事をして、服装は自由だったので、やはりこのカウボーイブーツを履いていました。その頃には、何足も持っているブーツの中で、最も足に馴染んだ履きやすいブーツになっていました。
2年前に会社を辞めて、カナダでカウボーイをすることになり、僕は当然履いて行きました。
こいつは、カウボーイに履かれるために生まれたブーツなのに、なぜか日本人の高校生に東京で買われるハメになり、その小僧がカウボーイになるまで20年くらいかかったわけです。やっとカウボーイに履かれることになったのです。
カウボーイの仕事はタフで、毎日クタクタでした。
その仕事の模様は今春『カウボーイ・サマー 八〇〇〇エイカーの仕事場で』という本になって旅と思索社から刊行予定です。
ブーツも年季が入っていましたから、ものの2週間で小さな穴があき、だんだん広がっていきました。
ひと夏、精一杯働いて、僕はこのブーツは役割を終えた、カウボーイブーツカウボーイブーツとして役目を果たしたんだから、いいだろうと思いました。
早朝にそっと、牧場の片隅に穴を掘って埋めました。
 
数えたら21年間の付き合いでした。ちょっと感傷的になりました。長い間大事にしてきて、履き心地が良すぎて、「えっ、僕は今日どの靴を履いてきたんだっけ?」と足元を確認するくらい、足に違和感を与えない、僕にフィットしたモノでしたから。
しかし、レザーというのはこういう時間をかけた使い方ができるということを改めて思い知らされ、
「オレは精一杯生きてきたな。このブーツもよく付いてきてくれたな……」
と、満足感の方が大きかったように記憶しています。
愛せるモノを、持っていました。
 
「愛せるモノを、持たないか?」
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