sunawachi.com「レザー・コラム」

レザーにまつわるあれこれを不定期で書く、sunawachi.comのコラム

「結婚もレザーも、メンテ次第で一生もちます」

友人の結婚祝いには、キッチン用品とかペアのグラスなどの食器、お酒、タオルなど、さまざまな品物が考えられますが、私(スナワチ代表の前田)は、この仕事をはじめる十数年前から、レザーのカバンを贈ってきました。
財布は人それぞれの好みや、コインは別に持ちたいとかカードをたくさん入れたいとか用途のバラつきが大きいのですが、カバンならまぁ、オケージョンによって使ってもらえることもあるかな、と。

渡す際にはいつも、カバンにメッセージを付けます。
「レザーのカバンも、結婚生活も、メンテ次第で一生もちます」

私にはアメリカに友人がいまして、ケンタッキーに住むロブという男です。
彼との出会いは不思議なもので、私がケンタッキーの大学寮に住んでいた90年代、そこにいた2年間のうち、最後の学期になるまで話したことはありませんでした。
自転車好きのデカいやつが、私の部屋の斜め向かいに住んでいることは知っていたのですが、いわゆる「Jock(体育会系バカ)」っぽい男だと思って、すすんで話すことはなかったのです。

ある時、共用のキッチンで私が料理をしている時に、バターがないことに気づき、すぐそばの彼の部屋をノックしました。
「なぁ、バター持ってないか?」
と、私は訊いたのですが、butterの発音が悪くて、彼は一度部屋に引っ込むと、自転車用のボトル(bottle)を持って出てきました。
「あ、いや、ちがうんだ。バター、バラー、えーと、料理用のグリースだ」
「ああぁ、わかった。オーケー」

それで私たちは知り合い、ひんぱんに話すようになりました。話してみると、彼は思慮深い、いい男でした。当時はよくモテましたし。

f:id:sunawachi_leather:20180425011748j:plain


フットボールの投げ方を教えてくれたのも彼でした。回転をかけて投げると、驚くほど遠くへ飛ぶのが楽しくて、よく寮の庭でキャッチボールをしました。
ある時、寮の仲間たちとホットチキンウィングを食べに行って、一番の激辛を注文したところ、辛すぎて夜眠れなくなりました。
彼も同様だったみたいで、明け方までまたキャッチボールをしたものです。

私が卒業して帰国する時はさびしかったですが、その後も何度もケンタッキーを訪ねて、彼に会いに行きました。この20年で6回か7回ほども行っているでしょうか……。

f:id:sunawachi_leather:20180425011838j:plain

彼が結婚した時には、日本製のレザー・トートを贈りました。
もちろん例のメッセージを添えて。

トートバッグというのは、アメリカ人男性からすると、やや女っぽいイメージがあるようで、「俺が使っても大丈夫か?」と心配そうに言っていました。
一男一女に恵まれたにもかかわらず、残念なことに、数年後、彼は離婚してしまいました。アメリカ人らしいと言ってしまえばそうなのですが、どちらかが、もしくは双方が「メンテ」を怠ってしまったのでしょう。
レザーだって、カビも生えれば、ヒビが入ってしまうこともあります。

当時の奥さんと離婚訴訟になった時には、大阪で会社員をしていた私の携帯電話に突然国際電話があり、私は何事かと慌てました。
彼は子供の心配ばかりしていました。かなりキツイ訴訟だったようで、
「いったん心を鎮めるために、日本でにも息抜きに来たらどうだ」
と提案した私に、父親としてちゃんと能力を持っていることを証明しなくてはいけないから、ここを離れることはできないと言いました。

彼は、まだ日本に来たことはありませんし、アメリカ人の多くがそうであるように、外国へ行ったことはありません。あ、カナダは外国にカウントしませんので悪しからず。


ロブはいまは再婚して、お互いの連れ子と大きな家族として、ケンタッキーで暮らしています。体重が20キロほども増えて、あの頃とは別人のようですが。
ちゃんとたまにはメンテはしているだろうか。オレも人のことは言えねえけどさ……。

いつか、あのカバンを手に日本を訪れてくれることを、私は楽しみに待っています。

 

sunawachi.com