「僕の仕事、みんなとの仕事」
スナワチ大阪ストアでは、KIGO特集をしています。
ブルハイド(去勢していないオス牛の革)を使ったカバンが代表作である、ものづくりの町、東大阪のレザーブランドです。
ブル以外にもカーフ(生後6カ月以内の仔牛)、キップ(6カ月から2年程度の若い牛)、羊、山羊など、さまざまなレザーを採用したカバンが店内に置いてあります。
先日、友人が店にやって来て、
見て!私がかれこれ10年以上前に買って今も使ってるバッグ(このブランドはなくなってしまった)と同じのがここに並んでる!!似てるんじゃないよ、同じだよ!! pic.twitter.com/EEJXAVrG8N
— ヤマダヤスコ (@yama_ysk0221) July 27, 2018
と言います。
たしかに、似ているどころか、おんなじかたちです。
KIGO代表の内山さんに訊いてみました。なかなかおもしろい話を聞くことができました。
「これは、僕が元々いた会社で修業中に作ってたものですわ。僕が最も尊敬するバッグ・デザイナーが手がけたもので、僕はまだまだ下っ端でしたから、作ってたと言えるかどうかわかりませんけど……」
いえ、作ってたんですよ。
私は以前、テレビCMを作っていましたから、それについては思うことがあります。
CMは、広告主がいて、その仕事を獲得してくる営業がいて、表現を統括するクリエーティブ・ディレクター、企画するプランナーやコピーライター、またはアートディレクター、予算とスケジュールを管理する制作会社のプロデューサー、さまざまな推進業務や雑務をこなすアシスタント、CMの演出を取り仕切るディレクター、あたりが主要な制作陣で、これだけですでに多くの人がいます。
撮影ともなれば、カメラマンとそのアシスタント、照明さんたち、セットや小道具を扱う美術さん、出演者とその事務所スタッフ、そのヘアメイクさん、スタイリストさん、撮影スタジオの人、編集スタジオの技師、音楽スタジオの技師、CGを作る技術者などなど、実にたくさんの人たちがかかわります。
その全員が「あのCMは私が作った」とは、そりゃ言えはしないだろうとは思うのですが、「私も、みんなと作った」くらいは言っていいのではないかと感じます。
このカバンは、Dカン(金属ループ)がたくさん付いていて、ハンドルやショルダーストラップの位置を付け替えることによって、トート→ショルダー→ブリーフケースのように3WAYで使えるという優れたものです。
内山さんによると、「その当時は月に500個売れていた」そうです。
「日本のバッグ業界の遺産です」とまで評していました。
デザインもよく計算されたもので、「なにかが売れると、すぐにパクッた商品が出てきますよね。これもそうでした。でも、安易にパクッたものはぜんぜんちがった。こうはカッコよくなかった」と言います。そのデザイナーに惚れ込んでいたことが窺えます。
これをオリジナルで開発したブランドはもうなくなってしまい、そのデザイナーさんもすでにこの世を去ってしまったそうです。
内山さんがご自分のブランドを持つようになって、当時の仕事仲間から「あれ、復刻してよ」と乞われて作ったのがこのカバンで、今後も継続的に作る予定は、ないと言います。
スナワチ大阪ストアは、開店してまだふた月半です。それでも、おもしろいことが毎日のように起きて、楽しいものです。
10年以上使っているバッグの持ち主は、知りえなかった製品の背景に触れ、作り手は、若き日に畏敬の対象にしていた人と、自分の過去の仕事にまた巡り合う。
人とモノ、記憶や想いの邂逅に立ち会うことができて、レザー屋冥利に尽きる思いでした。
スナワチ大阪ストア
大阪市西区阿波座1‐2‐2
sunawachi.com